タレント管理によるマンネリ人事の打破【前編/状況】
タレントマネジメントをすでに自社の人材マネジメントの中に採り入れ、個人のタレントを活かそうとしている企業がある。その企業では、タレントマネジメントを推進していく以前に、そもそもどのような問題や課題を抱えていたのか、またタレントマネジメントをどのように位置づけ、問題や課題を克服し、解決を図っていったのか。タレントマネジメントを推進することによって会社組織を変革させていった事例を見ていくことにする。
・異動にタレントマネジメントで合理性を―B社の事例【前編/状況】
◆マンネリ人事の打破からキャリアプランニングの実践まで
各地域に店舗を展開する企業にとっては、いかに地域密着を実現するかが成功のカギのひとつになる。人材面においては、特定の地域に強い従業員が登用され、多くの権限を委譲されて、強い発言権を持つケースも場合も少なくない。だが、店舗展開が進み、本部で全国的な視野で戦略を練って進めようとした時、地域でものごとが完結し過ぎていることがかえって足かせになることがある。
<事象>一部の人間に握られていた異動や配置
B社における人材の異動は、実績のある店長に新店や不審店を任せる等、人材育成の観点から見ると、極めて短期的、対処療法的な視点でしか行われていなかった。また、地域密着の方針でこれまで取り組んできたことから、異動の範囲はせいぜい県内程度に限られていた。さらに、これらの異動や配置の決定が、社長をはじめごく一部の役員の手に委ねられていた。B社はM&Aにより、いまでは全国で千名をゆうに超える従業員が働いている。しかし数年前までのB社では、異動や配置は、それにもかかわらず、まだB社が小規模だったころの習慣のままだった。異動は、過去の人事上の記録をもとに検討されるわけでなく、もっぱら社長や役員たちの記憶や感覚によって行われてきていたのである。
一部の従業員については、社長や役員が自ら働きかけて異動させていたが、残りの多くの従業員の異動はなおざりで場当たり的なものだった。また、店舗の中で正社員であるのは店長、副店長のみで、後は地域採用の契約社員だった。そのため、どうしても「指示する側」と「される側」に立場が分かれがちだった。仕事への意欲や自己を成長させようという意識にはなかなか至らなかったのである。
<発生していた問題や課題>仕事はマンネリ、社内には沈滞ムードが
期待されて異動する店長等の人材にとっても、決して良いことばかりではなかった。異動当初はやる気を持って取り組み、実績をあげるものの、2度3度と、同じような異動が続けば、同じ仕事の繰り返しになりマンネリになってしまう。当人にも自分が便利屋としか扱われていない感覚が芽生えてくる。そのため、初めのような業績をあげられず、社内では、キャリアを不安視して離職する者も現れ始めていた。
店長のみならず、若手の従業員(契約社員)においても、"店舗=会社"となっていることから、店舗で起こっていることが会社のすべてになっており、同社においては、意欲を持って積極的に働いて欲しいはずの契約社員においても、キャリアに対する閉塞感が生まれており、これからの成長やキャリア志向を醸成することは非常に困難な状況にあった。
代表取締役社長 兼 CEO 大野 順也