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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

ITと地球温暖化

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業務上の様々な作業がオンライン化され、さらに個人的にもネット利用が広がり、専用回線やインターネット上でのデータ量の増加には目を見張るものがある。ITが環境に及ぼす影響は良いこともあれば悪いこともある。どうも悪いことばかり強調されているような気がするのはIT屋の僻みだろうか。その槍玉に挙げられるひとつがデータセンターで、巨大なデータセンターの中でIT機器が電気をガンガン使っているというイメージのために、その効率化が叫ばれている。ITがあればこそ、出張せずに済んだり、サプライチェーンの効率化が図れたりして、エネルギー使用が節約できるのだが。

最近は主にITとエネルギーに関わるアナリストとして仕事をしている。グリーンITやグリーンデータセンターは技術の宝庫で非常に面白い。しかしグリーンの分野を考えるとき、技術だけでは十分でない。規制という問題がある。ガンガン電気を使うデータセンターは、温室効果ガスを大量に排出(直接ではないにしても)するからだ。今年の4月から東京都では温室効果ガスについて厳しい規制が始まった。規制はEUでは既に始まっていたが、英国ではさらに厳しく、東京都と同程度の規制がやはり今年の4月から始まっている。そういう意味では日本は国際基準を満たしていると言えるだろう。

米国でもここ12年、データセンターに何らかの規制が掛けられるようになるのは時間の問題だと、ヨーロッパでデータセンター業を営んでいるデータセンター屋さんの有名人たちが警鐘を鳴らしている。今年米国は選挙の年だ。下院全員の改選、上院の約1/3の改選、それに知事選も11月に予定されている。この選挙は規制という点で非常に重要な選挙となっている。

Cap and Tradeと俗に言われる温室効果ガスの制限とその権利のトレードの法案は、去年6月、民主党の賛成でぎりぎり下院を通過した。そして夏休み後の去年秋には可決される予定だった。ところが突然健康保険の問題が議会での議論を占め、この議案は棚上げになった。ちなみに米国では、上下両院が同じ法案を可決しないと法律とならない。議会の周期は下院の任期である2年。この法案が成立するためには、この議会の周期(2年間)の間に上下院で可決されなければならない。下院がこの法案を通して約1年、最近この法案の成立に意欲を示していた上院の民主党がこの法案をあきらめると発表した。去年でもぎりぎりの成立だった。不景気が続き、「こんな状況でCap and Tradeのような規制をすれば、さらに景気が落ち込む」と不安を募らせる選挙区の事情もあるようだ。

中間選挙では政権を担っている政党が負ける傾向があるので、11月には民主党が負けそうだ。そうなればこの法案が成立する可能性は更に下がるだろう。電力使用を制限するということは、産業の活動を制限するということにもなり、産業界を支持層に持つ共和党にとって認められるものではない。連邦政府としてこの法案を通せないのであれば、他の方法しかあるまい。例えば、環境保護庁に二酸化炭素を有害物質として指定・監視させるという手もある。

こうした規制は、連邦政府ばかりでなく、州のレベルでも議論されている。カリフォルニア州は全体的に革新が強い州で、2006年にCap and Tradeと似たAB 32という法案が可決されている。2020年までに1990年をベースにした温室効果ガスの削減を目指すとしており、2012年までに正式の法律とすることがうたわれている。しかし、この州レベルの法案は、州議会で可決されたからといってそのまま施行される保証はない。カリフォルニア州ばかりではないが、米国には選挙民が直接条例の制定や廃止に投票できる制度があり、11月の選挙の際にこの法案を廃止するという案が住民投票に掛けられる。この住民投票の行方も定かではない。

とかく日本と比較される欧米だが、欧は地球温暖化対策に対して積極的であり、日本もそういう方向だ。米国はその姿勢にまだかなり温度差があるといったところだろうか。景気の悪さを肌で感じるカリフォルニアの選挙民が、自州で一生懸命やったところで全世界規模では全然インパクトがないと感じて、AB32も廃止されるかもしれない。ということは、データセンターの運営者は少しほっとできるのか。まだまだ分からない。それにしても、世界がどう言おうと自分の利益を守るという姿勢はアメリカらしいと感じる。

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