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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

日本発の気概を見せろ

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筆者の知る限り、ITの技術や流行は米国発に決まっている。渡米して専門を電気工学からコンピュータに変更して以来現在まで、ITの話は米国から見ている。以前米国のスタートアップを日本に紹介するコンサルをやっていたとき、日本で事業を展開している友人から、米国で流行っていないものを日本へ持って来ても駄目だと言われた。これは自分でも散々経験したので身に染みている。日本のIT業界は、米国が評価しないものは端から相手にしない。そのために次のようなことが起こる.

  • 有望なスタートアップが日本市場に参入しようとしても、米国での実績がなければ可能性はゼロ。
  • 人の評価も同様。米国で評価されていないと日本で評価されない。皮肉なことに、米国で評価されている人で日本市場に興味を持つ人は稀だ。
  • 日本の会社が米国のスタートアップに投資するのは、米国のVCが評価した後に限られる。で、リターンも小さい。
  • 米国のITの傾向や技術は間違いないと固く信じている。ときにクズを掴んだりしている。

最近日本の業界団体が、データセンターのエネルギー効率を測る指標であるPUEの改善を提案した。その新しい指標のホワイトペーパーを日本語と英語の両方で出している。2月に発表したばかりだからかもしれないが、米国のメディアではまだ取り上げられていない。今回は技術の話をしているのではないので、PUEの詳細は述べない。

先日PUEが世界標準になったというニュースが流れた。日本の団体はもちろんこの世界標準化に加わっている。日本のニュースを見ていても、この記事はあまり大きく取り上げられていない。おかしいなあと思い、別な方面から少し探ってみたところ、PUEは結構だけど結局はこの新しい指標を押したいらしい。なるほど、だからあまりPUEそのものを押さないのか。

まあ、なんでも良い。筆者は毎日ブログを書くというノルマを自分に課しているので、常にネタを求めている。これはブログのネタじゃ。というわけで、この話をブログに書いた。大体ブログは先に英語で書いて、後でそのまとめを日本語で書くことにしている。英語版を発表してすぐに、最近VMWareを辞めて色々なスタートアップに関わっているデータセンターの専門家がメールをくれて、「これは面白い。あっちこっちにretweetするからな」とあった。どうやらそれが本当らしくて、あちこちに出回って、このPUEを改善しようとしている団体にまで届いたようだ。さるところからその話を聞いて、面白いと思った。というのも、英語で書いたものが米国の専門家経由で日本へ流れたからだ。もし日本語で書いていたら、このブログは日の目を見ただろうか。ちなみに次がそのブログ:

英語

日本語

PUEに話を戻すと、米国でもPUEを改善しようとする動きがあり、幾つもの指標が提案されている。日本側の提案がそのまま受け入れられる可能性は低い。だが、その努力は評価するし、これだけで終わってはならない。日本の技術者のレベルは高い。でも、糞真面目すぎる。米国の技術者は、技術者だが市場に売り込むことに長けている。米国のスタートアップは、完成品よりも早くモノを市場に出すことに重きを置く。そうしたモノをライセンスした日本の企業がソフトのコードを見て、バグだらけと評価するのを何回も聞いた。

もうひとつ例を挙げてみよう。燃料電池のBloom Energyは、CEO兼ファウンダーがNASAの研究所出身のいわゆるrocket scientistで、VCがかの有名なJohn Doerrであることも手伝って、製品を発表した途端に凄い反響を呼んだ。もちろん、eBayGoogleが採用していることも大きいが、それでも他に米国に100はあるという競合を押さえてのトップランナーの位置を占めた。ところが、Bloomと同じ型の燃料電池の開発と実証実験をしている日本の団体に話を聞いたところ、Bloom型の技術は温度が1000℃にも達するので、長期の使用に耐えうるのかどうかについての実証実験の結果が気にかかるとの発言があった。Bloomはそのことはあまり語らない。この件に関してはここを参照。

日本には技術力も優秀な人材もある。それなのに相変わらずIT分野では米国優位、米国追随が続いている。ではどうすればよいのか。これは情報を発信するしかない。日本では周知と思われていることが、世界どころか米国で知られていない。日本のメディアは、海外での日本の話を報道することに熱心だ。しかし、「和食文化が世界に広まった」などという自己満足的な報道で日本の情報が海外に伝えられているなどと勘違いしてはいけない。こちらにいると、中国の影響力の増大と「Japan Passing」をひしひしと感じる。

情報発信は米国や世界に通じるものでなければならない。例えばブログ。大部分の内容は読むに値しないが、一旦読むに値すると評価されれば、その影響力はり知れない。当然だが、日本語による発信ではだめだ。英語でなければ。「なんと不公平な」という嘆きもあるかもしれないが、文句をいう暇があれば、自分で変えられないことはそのまま受け入れて、変えられることに集中すべきだ。

英語で専門分野のブログを書ける人、その英語を添削できる人。そんな人を100人も養成して毎日ガンガンブログを書く。新しい方式や技術の提案をガンガン発表する。これを1年間休みなく続ける。これで結果が出なかったら、もうこの分野で大きなことをいうのを止める。しかし本気でこれをやれば、コンファレンスやその他の集まりに招待されることは間違いない。そうなったら、英語で技術の議論や喧嘩ができなければならない。だからその100人の他に(100人の中からでもよいが)、そのレベルの人を養成する。なんならその内の何人かを米国に常駐させる。金が無い?つまらないプロジェクトや建物を作る金からみたら、そんな金、小さなもんだ。当然その100人の内、米国の方が良いと言って辞める人も出る。出たら、補充すればよいだけだ。辞めて米国に残った人も決して反日にはならないだろう。積極的な親日化運動をしなくても、日本の文化を背景に持ち、米国IT業界で日本のことを英語で説明できる人が一人でも増えたら、日本という国にとってプラスになるはずだ。

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