IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

【書籍紹介】『職業としての地下アイドル』姫乃たま

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インディーズ系アイドルの自死という、不幸な事件があってしばらく経つ。本件はアイドルの親族と事務所の言い分が食い違っており、民事訴訟中であるため詳細には触れない。ただ、事件をきっかけに多くのアイドルが事務所の一方的な契約や行動に異議を申し立てており、ちょっとした騒ぎになっている。また、逆に「うちはこんなに恵まれていたのか」という意見も流れて来た。

それで思い出したのが、いつか紹介しようと思っていた書籍『職業としての地下アイドル』(姫乃たま著)である(思ってから丸1年以上経ってしまった)。姫乃たまは本ブログでも何度か触れているとおり、地下アイドルとして活動しつつ、Web媒体や雑誌にコラムを執筆している女性である。

本書は、2016年から2017年にかけて、姫乃たまが地下アイドルの複数のライブ会場で取ったアンケート(アイドル104人、アイドルファン109人)の回答を、オウチーノ総研の「『学生生活』に関するアンケート調査」(2016年)や、内閣府発表の「平成25年度我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」などとと比較した評論である。前作『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』の第2部と同様、データに基づいた読み応えのある内容だった(こちらについては以前の記事【書評】姫乃たま『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』でも書いた)。

中でも特に印象的だったのは、地下アイドルは「いじめられたことがある」が52.1%、「いじめられたことが少しはある」が28.7%という数字だ。実に80%以上の地下アイドルがいじめの経験を持っていることになる(一般対象の調査では11.7%と26.7%、あわせても40%弱である)。

また、「母親に愛されていると思う」「父親に愛されていると思う」が、アイドルではいずれも70%を超えるのに対して、一般調査の「親に愛されていると思う」は35%でしかない。

つまり「両親に愛されて育ったのに、学校などでいじめられることで、自分の居場所が不安定なものになってしまった」と推測できる。この2つ以外の項目は、ここまで極端な差にはなっておらず、非常に興味深い。

もっとも、そこから導ける結論は特にない。たとえば「地下アイドルのファンもいじめられている人が多いのだろう」と推測する人がいるかもしれないが、実際には「いじめられたことがある」は27.1%、一般の倍以上ではあるが地下アイドルの半分である。また「いじめられたことが少しはある」が38.5%に対して、一般の人は26.7%と、確かにいじめ経験者が多いものの、極端に多いわけではない。

このように、どの項目も特に明確な結論が出ているわけではないのだが、個々のデータは面白いし、著者なりの感想も興味深い。社会現象としての地下アイドルについて知りたい方にはおすすめしたい1冊である。


地下アイドルのライフサイクル

ところで、著者の姫乃たま氏は執筆活動が増えるなど、自分自身が定義した「地下アイドル」から外れてきたことで、「地下アイドル」の看板を下ろすことにしたそうだ。平成最後の日2019年4月30日に「パノラマ街道まっしぐら」と題したライブでアイドル最後の日を迎える。「アイドル」に明確な定義はなく、誰でも「アイドル」を名乗れるように、いつでもアイドルの看板を下ろせるのだ。

平成最後の日になったのは偶然らしいが、地下アイドルの台頭が平成元年あたりからで、今年は特にアイドルの解散や引退が多い。結果的に実に象徴的なイベントとなった。

地下アイドルの先は、メジャーアイドルに進む人や、衣装制作やプロデュース業務に関わる人などさまざまだが、姫乃たまに関しては現状通りで、単なる看板のかけかえだという。だったら何もしなくてもいいと思うのだが、本人的にはそういうものでもないらしい。

地下アイドルの看板を下ろすことについては、彼女がNoteに書いた記事「2018年8月18日 パノラマ街道まっしぐら(地下アイドル卒業と記念公演のお知らせ)」が面白い。これを読むと、以前書いた記事「ストーカー犯罪はアイドルだけではなく、あなたにも起きるかもしれない」で紹介した彼女の発言が、どれだけ大きな覚悟で行われたのかが分かる。このNote、引退宣言としては名文だと思うのだが、多くの誤解も招いているらしい。人に思いを伝えるのは難しいものだ。

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