IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

フルサービスとセルフサービス

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日本の顧客はサービスレベルの要求が高いと言われるが、本当だろうか。今回はサービスレベルについて考える。

なお本記事は、2011年3月7日に公開した記事に加筆したものである。相当前の話であり、現在の状況とは違うかも知れない(おそらく、確実に違うだろう)ことをお断りしておく。


■航空会社のサービスレベル

2011年2月28日から3月2日までの3日間、恒例のMVP Global Summitが開催された。場所はマイクロソフト本社のあるレドモンド、宿泊先は隣のベルビューだった。いずれもシアトルのすぐ近くである。

MVP Global Summitの内容は置いておいて、今回は航空会社のサービスレベルについてである。私は昔からユナイテッド航空(UA)を使っている。今回は、ビジネスクラスにアップグレードできたので、以下はビジネスクラスでの話である。

成田空港はUAカウンターの隣に全日空(ANA)のカウンターがある。今回、なぜか間違えて全日空のカウンターに並んでしまった。後述する通り、UAのカウンターに人影が見えなかったからだ。

ANAのカウンターに並ぶこと10分、係員に便名を告げると間違いを指摘された。慌ててUAのカウンターに行って手続きをした。完全に終了するまで3分もかからなかった。

そもそもANAの利用者の方が多いということあるかもしれない。しかし自動チェックイン機が導入される前はUAにも行列ができていたのも確かである。

当時のANAは、行先の確認や、パスポートのチェックなど、すべての作業を係員が行っていた(今は分からない)。ざっと見たところ10人程度が対応していたが、それでも行列ができていた。

UAは、行先の確認とパスポートチェックは、自動チェックイン機を使って利用者が自分で行なう。預け入れ荷物がある場合は個数を入力するとタグが印刷される。係員が姿を見せるのはこのタイミングだ。よく見ると3人くらいは待機しているようだった。

初めての人には分かりにくいかもしれないが、一度経験すれば難しくはない。操作に手間取っていると係員がやってくるので、初めてでも途方に暮れることはないだろう。

先日(2016年)、ANAの国内線を利用したが、すべてチェックインどころか荷物の預け入れも自動だったので、自動化は航空業界のトレンドのようだ。

飛行機に初めて乗る人は、利用者全体から見るとわずかだろう。少数の利用者のために、多数の利用者が待たされるのは不合理である。リピーターであっても係員が対応するせいで、行列ができる。

飛行機に初めて乗るとき、一番不安なのは「自分が並んでいるこの列が正しいのだろうか」ということだ(私はそうだった)。ところが行列の最後尾に係員はいない。いれ私もANAの列に並ぶことはなかったはずだ。

「チェックインはセルフサービスだが、必要な人には係員が対応する」これで行列は解消する。慣れない人のために入口に係員を置けば理想的だ。

 

■ITのサービスレベル

以前「中華料理のサービスレベル」というコラムを書いた。このときは、セルフサービスの利点はIT部門の負担が軽くなることと利用者の期待をコントロールできること、欠点は正しく問題解決ができない場合があることを指摘した。

今回、航空会社のカウンターを見て思ったのは、セルフサービスで十分な顧客に対しては人間が対応しないことで、フルサービスが必要な人への対応時間を増やせるということだ。

通常、フルサービスはセルフサービスよりも便利だがコストが増えるとされている。しかし、いくら便利でも長い行列では満足度が下がる。セルフサービスとフルサービスを組み合わせれば、低いコストで高い満足度を実現できるはずだ。

「日本人はフルサービスを望む」という声がある。私は、それはウソだと考えている。ERPシステムの導入にあたってカスタマイズ要件が増える話はよく聞く。しかし、最近のSaaS型のクラウドサービスを担当しているSEの方に聞くと「クラウドだからカスタマイズできません」と言えば、多くの顧客はカスタマイズ要求を引っ込めるのだという。「できますか」「できます」「では、やってください」ではなく「できますか」「できません」「分かりました」という流れでも、価格が適切であれば問題はないらしい。

 

■ITのパラダイムシフト

現在、IT業界の価値基準が大きく変わりつつあることは多くの方が認識されていると思う。いわゆる「パラダイムシフト」である。

パラダイムシフトは常に新技術がきっかけになる。今回は、インターネットと仮想化技術の発達によるクラウドの台頭である。クラウドは、ITを所有するものから、利用するものへと変える。その結果、IT業界で働くエンジニアに要求されるスキルも変わる。フルサービスからセルフサービスの流れは一例だ。

一般企業はITベンダーに頼らず、自社のIT部門でシステムを内製する(こともある)。利用者部門はIT部門に頼らずシステムを自作する(こともある)。ITの専門家はさらに高度なシステムを提案したいものである。

そういえば、飲み会で手酌をする人も増えた。昔は「手酌する人は出世しない」と言ったが、「出世」の意味が多様化し、そもそも出世したくない人も増えた。これも一種のパラダイムシフトだろうか。

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▲我が家の犬や猫にもセルフサービスを求めたいものであるが無理そうだ

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