インターネット上では様々な国からサイバー義勇兵が集まる可能性がある
インターネットには色々な国の人が接続していますが、彼らは一歩一歩「2chの祭」に近づきあるかもしれません。
国籍とはなんでしょうか。自分の両親がどこの国籍か、またはどこで産まれたか、書類上はそのように決まります。その一方で、大人になってから自分の意思で他国に帰化したり亡命したり、そのように国籍を変えることもあります。
国籍を与えられればその国に所属するとともに、その国の保護を受けることができます。一般的には、多くの国民は自分の国が繁栄することは自分の幸福につながるだろうと考えて国のために働きますし、国のほうでは国に反逆しないよう法制度を整えたりします。(愛国心を持つ人もいれば、契約関係的な割り切りを望む人もいます)
ほとんどすべての国で、自国を守ることは自分を守ることと同一であると考えて間違いありません。過去の歴史から考えて他国による侵略を受ければ、自分の生命や財産を傷つけられることは明らかだからです。そのため各国は徴兵制や志願制により防衛体制を構築し、海岸線や国境、上空などを監視します。
例えば飛行機で許可を得ないまま他国の上空を通過しようとすれば戦闘機に迎えられるかもしれません。陸上で国境の検問を突破しようとすれば、阻止されるでしょう。船で領海に入ろうとしてもレーダー等で発見されるでしょう。また、無許可で直接突破するだけでなく、爆発物や違法薬物などを持ち込んで国を中から混乱させようとするテロリストがいるかもしれません。そういった場合は地図上の国境線というよりは機能上の国境線である空港や港での検査が重要になります。そのように、国境というのはどの国も守りを固めるのに力を入れる場所であると言えます。
一方、サイバー戦争、サイバーテロではどうでしょうか。インターネット上に国境線はありません。ですので、海から離れており、また、空港もない、例えば琵琶湖のようなところにもいきなりサイバー攻撃が加えられる可能性は十分にあります。
ということを以前にブログで書いたことがあったのですが、考えが浅かったと反省しているところです。
というのは、このエントリの前段にも書いた「国籍」を考えていなかったからです。
私は日本に生まれ日本に育ちました。そのため日本以外の特定の国に強い思い入れはありません。しかしながら、例えば私が高校の時に同じクラスにいた留学生のミシェルというカナダ人のことを思い浮かべてみたとします。カナダが今国境線を接するアメリカの侵略を受けたとして、私がそのことに腹を立てたらどういう行動ができるでしょう。現実世界ではさほどのことはできず、反米デモに参加するくらいでしょう。または手紙を書いてグローバルに送るとかそういう草の根的な活動が考えられます。
しかし自分にそれなりのサイバー攻撃力があったと仮定して、今の生活が多少犠牲になってもいいや、と思うほどに腹を立てる何かがあったとすれば、アメリカに何らかのサイバー攻撃を行うという決断をするかもしれません。(実際にはまったくそんな能力もないわけですが)
大戦後に旧日本軍がインドネシア独立のための「義勇兵」になったことは有名です。それと同様にインターネット上の義勇兵として、「外国人」にも関わらず積極的にサイバー攻撃に参加するということは今後十分に考えられます。先日のWikileaksのジュリアン・アサンジ代表の逮捕後のサイバー攻撃に参加したのは、アサンジ代表の国籍(オーストラリア)ではなくオランダでした。
Wikileaksめぐるサイバー攻撃でまた逮捕者 オランダの19歳男性 - ITmedia News http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1012/13/news029.html
サイバー戦争やサイバーテロに伴い発生するサイバー攻撃では、リアル世界の戦争よりも義勇兵を集めやすいかもしれません。
もう何年も前の話になりますが、田代まさしさんをTIME誌の表紙にするための組織投票が行われました。あれは田代まさしさんだったから”シャレ”で済まされたとして、平和活動家の劉暁波さんやダライ・ラマ師などが持ち出されていれば非常にきわどい場面だったかもしれません。また、相手方がTIME誌であり、また日米間だったので政治的な緊張にはなりませんでしたが、相手方が人民日報やプラウダだったならばそれなりの影響があったかもしれません。
実際に、韓国や中国から日本にF5アタック等のサイバー攻撃がしかけられるという事件が発生しています。これらは今のところ現実世界で発生する投石や日本国旗を燃やすデモ行為の延長線上と言えるような動きと言えますが、現実世界での自分の身の回りの人の行動と切り離されたところで、完全な個人の思惑レベルで発生するようになればどうなるでしょうか。
リアルな生活がある特定の国に固定されている以上、自国に対する攻撃をする人は少数派であると考えられます。また、近隣の国に対して嫌悪感情を抱いたとしても、両国間が緊張することで結果的に自国のマイナスになりそうであればどこかでバランスがとられます。一方でリアルな生活への影響が小さい国であれば、憂さ晴らしのような気持ちで、かつ、法的に許される範囲でサイバー攻撃に加わる人が現れるかもしれません。
例えばある国の元総理大臣が母親との間で脱税行為を含む多額の金銭の贈与を行い、その除却期間があったことから数億円の追徴金が元総理大臣に返還された。その国の国民は腹を立てているもののリアル生活との兼ね合いもありあくまで選挙行為でのみ意思表示を行うにとどめる。しかし「それはオレの正義が許さねえ」と世界各国から当該政治家のWebサイトに苦情メールが殺到、一人一人のリロードはDDoSと見なされない程度の低頻度・少数回アクセスとしてもトータルではものすごい数になりWebサーバ、メールサーバがダウンする、そのような場面があるかもしれません。またはWikileaksのように漏洩元の身元の安全が保証された経路から極秘情報が漏洩されるようなことも考えられます。また、攻撃に加わらずともPayPal等を通じた資金援助者となることもできます。
私自身、これまでサイバーテロやサイバー戦争の脅威というのはあくまで重要インフラに対し攻撃が加えられリアル生活に打撃が加えられることだと考えていました。しかし、リアル生活の重要度に比較してネット上でのコミュニケーションの重要度が増すことで、ネット上での示威行動のインパクトも増してきています。それにより、他国のやることなすことに対して外国から意思表示をすることが今よりも注目されていくでしょう。しかもデモ行進のように組織された活動でなく、個人個人が好きな時に好きなだけ、自宅から適当に行動したとしても、タイミングさえ揃えば重大な結果を残すことができます。それは2chの祭りが時にものすごいインパクトを残すことでなかば証明されています。
先日のエントリでアサンジ氏の逮捕に触れ「残すところ少ない2010年ですが、何かもう1件くらい事件が起きそうですね。」と書きました。AnonOps(Anonymous)が世の中に存在感を示したことは、自分にとって21世紀で最大級のニュースと言えるのではないかと思います。この1件により、今後インターネット上の人々が国籍に関係なく「祭り」に参加するきっかけとなるだろうと予測しています。