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「父さん。僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジです」をゲンドウが信じたわけ

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「父さん。僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジです」

はエヴァンゲリオンの代表的な名台詞のひとつです。テレビ版だけでなく新劇場版の「破」にも現れました。ゲンドウはなぜここでシンジを信用して初号機に載せたのでしょうか。

なお、この時点で「最強の使徒」を迎え撃っているわけですのでシンジが参号機と同様に乗っ取られているという可能性もあります。ただし記憶を含めて乗っ取られている場合、ゲンドウはどうにも見分けようがないですので、そこまでは考えません。

まずは見た目や声といった生体情報による認証が考えられます。疎遠とはいえここまで育ててきたわけですので、顔や声から「ああこいつは確かにおれの息子だ」と信じさせる何かがあったのではないかと思われます。機械にやらせる場合は指紋、手のひら静脈、声紋、虹彩等で行われます。人間がやる場合はサッカーのフーリガン対策で有名な「スポッター」のように顔を見分けるプロが行なうこともあります。

そしてIDカードによる認証が考えられます。劇場版ではテレビ版ほどクローズアップされていないように思いますが、NERV本部に入るには自動改札機のような機械に顔写真付きのIDカードを通すようです。IDカードは他人の手にわたらないよう気をつけて管理するものですので、もし碇シンジ本人のIDカードを所持していれば本人であると考えられます。(しかしこのシーンの碇シンジは参号機のイザコザでクビになり、一般市民と一緒にジオフロントのシェルターに避難していたところですのでIDカードを持っていなかった、または持っていたとしても有効でなかったかもしれません。少なくともテレビ版では失効処理されていました。また、そのIDカードを発行するにあたった根拠は何であったか、ということも考えなければなりません。NERVは日本国の特務機関ですので、そのIDカードはそのへんのレンタルビデオ屋の会員証と比較すれば信頼性が高いと考えられます。)本人だけが所有するよう(他人の手に渡らないよう)努力されるものという意味ではハンコもこれと同じタイプです。

本人しか知り得ない情報による認証というのもあり得ます。そもそも報道管制が敷かれていることから「エヴァンゲリオン初号機」という呼び名が関係者限定で通用するものと思われます。また、そのパイロットが誰かということも極秘情報でしょう。「エヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジです」と宣言すること自体が、非常に限られた人数でのみ可能な行為とも考えられます。もっとも、NERV内部などで何十人、何百人が知り得る情報と思われますのでこれだけで本人であると確定することは弱い気がします。「父さんの旧姓は六分儀ゲンドウです!」とか、「父さんは昔バンドに入ってBLUE SEEDのオープニングテーマを歌っていました!」と叫んでいたら非常に本人であることの確からしさが高まるでしょう。IDとパスワードによる認証はこれと同じタイプです。

本人しか遂行しえない事項による認証というのもあり得ます。実母であるユイの魂と溶け込んだ初号機とシンクロするというのは最たるものです。我々の住む現実世界ですと、ヤフオクが自宅に何桁かの乱数を郵送し、ヤフオク上でそれを打ち込むことで認証が行われます。ほとんどの人は自分宛の郵便物が他人に取られることを許しません。また、郵便物は正しく届けられるという制度が高い運用水準で確立されています。ここから、その乱数を受け取ったということは本人であるというように判断されています。

また、葛城ミサトは碇シンジが乗り込む瞬間を見ていないにもかかわらず、自分を助けに来た初号機を見て「エヴァ初号機。シンジ君!」と発言します。これは直接本人がそうしているところを見なくとも、こうできるのは本人だけだろうとの推察が成り立っていることを意味します。このケースと似ているものとして、現実世界のサインがあります。サインは目の前でしなくとも、サインされた筆跡だけを見て「確かに本人がしたのだろう」という用途で使われるからです。

私が個人的に好きになれない真希波・マリ・イラストリアスが使徒に敗北した後に碇シンジと会話しているシーンがあります。そこをゲンドウが見ていたとしたら、マリが保証するならば本人であろう、と推察することができます。SNSはこれと同じタイプです。

綾波レイのピンチにより、本人が初号機に乗りに来るであろうということを前提として、名乗り出れば本人とみなすことも可能と思われます。この場合はむしろ「これだけやっても出てこないからには死んだんだろう」という後ろ向きな用途で用いられることが一般的なように思います。

また、冬月コウゾウや赤木リツコを厳しく尋問するような場面があります。何かやらかした場合にあのように大きく人権に制限を受けるような事態があるとしたら身分の詐称をしたいと思う人は減ることでしょう。それだけのリスクを犯してまで他人を名乗る必要はあるまい、という考えで本人と認めることも考えられます。

と不まじめな感じで終わって申し訳ないので参考にIPAのサイトで公開されている関連資料を紹介します。

SP 800-63(2006年04月) ← PDFファイルです。
電子的認証に関するガイドライン
Electronic Authentication Guideline

考えて見れば碇ゲンドウにとって碇シンジは息子ですから見間違う可能性は非常に低いわけですが、オレオレ詐欺の被害がなかなかゼロにならないことからもわかるように認証というのは危うい分野であることも否めません。

また使徒が初号機を取り込んだ際に「目標の識別信号がゼロ号機に切り替わります」「これでやつがドグマに侵入して自爆しない!」というやりとりがあったように、電子的な認証では普通の場合ですと認証OKのイベントと認証NGのイベントを定義しておいて自動処理します。そのため突破されたときに大慌てすることになります。

ですので厳格な認証を必要とする場面では電子的な手法に人間を巻き込んだウェットなやり方を組み合わせて、人不在で処理が進まないような配慮がされます。

また、NERV本部が大ピンチの場面で碇シンジは崩壊したシェルターからNERV本部に入っていきます。このとき「NERV入館証がないので入れません」とブロックされていたら使徒によるサードインパクトが起きていたかもしれません。認証について考える際はそのへんの緊急運用の定義というのもまた重要と言えます。

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