オルタナティブ・ブログ > 一般システムエンジニアの刻苦勉励 >

身の周りのおもしろおかしい事を探す日々。ITを中心に。

今の情報システムの機能をゼロから作り直せればいいのに

»

ITmediaにデータ中心主義――貫く情報システムがもたらす恩恵というおもしろい記事が載っていました。

「今の情報システムの機能をゼロから作り直すことができれば、今度はシンプルに作ることができるのに」

既存の情報システムを大量に抱えている企業の方々は、一度や二度はこう考えたことがありませんか? 長年にわたり稼働し続けているシステムに対してこう考えているのは、あなただけではありません。おそらく、IT関連の仕事に携わっている方はみんなこう思っていると断言できます。

誰もが多かれ少なかれ、仕事でもプライベートでもこれと同じことを思ったことがあるはずです。情報システムの話題に限っても、現場の社員だけでなく上司も経営者も同じ思いを抱いたことがあるんじゃないでしょうか。

しかし「ゼロから作り直したら」という妄想はあまりプラスになりません。今のような形で情報化を進めた企業の多くでは既に膨大な情報資産を持っているはずで、あらゆるシステムは現在保有しているデータを引き継いてスタートするでしょう。また、疎であれ密であれ現行システムと何らかのインターフェースを持っているはずです。そう考えるとゼロから作るシステムというのは非常に少ないでしょうし、ましてや作り直す機会はもっと少ないと思われます。

ですのであり得ない妄想にとりつかれるよりは、「もしこの業務プロセスを統合していたら、この処理はもっとシンプルに実装できたかもしれない」というような現実感のある振り返りシュミレーションをしたほうが前向きであると思います。システム障害やユーザからの苦情は、そうした振り返りのためのよいきっかけになるでしょう。

振り返りのためには開発記録が存在しなくてはなりません。記録に基づいて開発の経緯を分析すると色々なことが見えるはずです。当時の判断材料には「予兆」が少なくて誰がやってもそのようなシステムしか作り得なかったのか、それとも当時の判断材料でもうまく分析すれば良いシステムを作り得たのか。ISO9000シリーズを取得して品質記録を残しているものの、こうした分析をせずにキャビネの肥やしとなり、「認証取得のための認証取得」で終わってしまうのはもったいないです。もし品質記録があれば振り返りの強い味方になるはずです。

良いシステムを作り得る可能性がどれほどあったのか。決定的な判断材料が採用されなかった原因はなんだったのか。時間不足?経験不足?コミュニケーション不足?などなどわかることはたくさんあるはずです。

例えば発注者であるユーザ企業側に基本設計レビューという工程があるとします。レビュー記録には参加者の氏名や指摘事項と並んで「レビューに要した時間」を記入することが少なくありません。そうした情報を蓄積しておき、どこかのタイミングでシステムの完成度(満足度)、規模、基本設計のレビュー時間の相関を調べれば何らかの傾向がつかめるかもしれません。

また受注者であるSIer側の基本設計工程内に、顧客レビュー前の社内レビューという作業があるとします。そのメンバーのオープン系システムの開発経験年数と、そのシステムの稼動後の障害件数やダウンタイムに相関があるかもしれません。

どんなことが記録してあればそうしたことまで分析できるでしょうか。会社の資料を持ち出すわけにもいかないので適当なサンプルはないかと思って探してみたのですがなかなか見つからず、守備範囲ど真ん中ストライクのはずの森崎さんのブログを辿ってみると……ありました。見事なサンプルです。

format"確実な記録"こそが、品質・コストに貢献する

こんなに細かい記録を作るのは確かに大変かもしれませんが、かといって情報システム部門の仕事が1割とか2割というボリュームで増えるほどのものでもないでしょう。また、分析に要する時間は元データが電子化されていれば仮説を立てて集計するだけの作業になるはずです。情報システム部門からメンバーを1人指名し、20%の体力を記録・分析に振り向けたとすると年に2.4人月ですから、384人時になります。システムの利用者が1000人いると仮定すると、その人の分析でシステムの利用効率が一人当たりで月間2分、年間24分も向上すればペイできることになります。

冒頭でも言ったとおりゼロから作り直す機会はめったにありません。しかしあるべき姿と現実のギャップを分析することで、次の開発ではできるだけギャップを小さくすることができるはずです。それもまったく新しい技法を習う必要があるわけでもなく、地道な記録とちょっとした発想(仮説を考える)、そしてExcel程度の統計処理ができれば十分でしょう。もちろん成果が上がってきたら外部の手を借りて本格的にやることもできるはずです。そうした改善体制を情報システム部門の風土に定着させることができたら、「ゼロから作り直したい」などと思うことをぐっと減らせるのではないでしょうか。

Comment(2)