「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法である。

善きサマリア人の法 - Wikipedia

よきサマリア人の法というものがあります。例えばフライト中の飛行機で急病人が発生し、乗り合わせた医師がその場で尽くせる限りの医療を施したのに急病人が亡くなってしまうという事例があったとします。「よきサマリア人の法」はそういったケースで医師に責任を求めるかどうか、という議論で顔を出す考え方になります。

いまインフルエンザが猛威をふるっていますが、新型インフルエンザに感染していると知らずに患者を診察した医師の方が何日か診療を休止するよう求められたとのことです。医師と言えど濃厚接触者であるわけですので感染を防止するためには仕方のない措置なのかもしれません。しかしただでさえ医師のリソースが少ないことや、医師の方は念のためにタミフルを服用していたとのことで過剰反応であるようにも思います。誰もが初めての経験ですのでこういったことが発生することはある程度仕方ないところがありますから、次回につながる何かを発見していく必要があるでしょう。

さてこういった事例があると、医師にとっては新型インフルエンザの患者を診察することがリスクになってきます。発熱を訴える患者を診察したところ新型インフルエンザだったことが判明し何日か休診を命じられてしまうようでは、自分のところでの診療を拒否して発熱外来へいくことを進める医師が増えるかもしれません。自分で高リスクであることを自覚している患者はもちろんはじめから発熱外来へいくべきです。しかし患者のほうは患者のほうで発熱外来へいくことに強い不安を感じます。なにせ自分がインフルエンザかもしれない、と思う人が集まる場所ですので、特に心当たりはないけれども熱があるというような状態ではかかりつけの一般の外来へ行きたくなる人も多いでしょう。そういったミスマッチから、仙台市では新型インフルエンザが疑われる患者でもかかりつけ医に行って受診できる体制が整っているようです。

もちろん自分の診療所を受診するのでなく発熱外来を進める医師の方は休診による不利益よりも不要な感染拡大リスクを低減する目的があるのだと思われますが、まじめに診察を担当した医師が休診を命じられ損をしたように見えたこの一件にサマリア人の法と似たような構図を感じました。

実はシステムの業界でも時折同じような構図があります。システムを運用する場面ではサービスレベルアグリーメント(SLA)を締結してサービスの範囲を定めることが多くなってきました。例えば有人監視を8時から20時としてそれ以外の時間の障害を検知しないであるとか、ある運用はベンダー側が行い、ある運用はユーザ側で行うといった取り決めをしておきます。

さてサポート時間外でたまたま障害に居合わせた場合や、ユーザ側での運用にミスがあったのを発見したような場合にシステムエンジニアとしてどのような行動をとるべきでしょうか。医師が病院以外での診察で患者を死なせてしまった場合アメリカでは免責されますし、日本ではサマリア人の法がないためにまちまちのようです。罰せられることもあります。ちなみに見てみぬふりをした場合に法的な罰はありません。事例の内容によっては勤務先に名声上の不利益を与えて解雇されるなどの可能性はありますが、法律に「病人を見つけたらブラックジャックのようにどこでもその場でできる限りの治療をしなくてはならない」とは書いてありません。

おそらくSLAがしっかりしている場合は障害を見て見ぬふりをしても問題はないはずです。もちろんサービスで対応してあげれば喜ばれるのは確かですが、それもいくつかの問題があります。まず失敗した場合の責任範囲です。善意でやったこととは言えお客様に損害を与えてしまうようなことになったら賠償しなくてはならないかもしれません。会社と会社で契約をしているのにそれを無視してやったことが損になるわけですから、善意の行動を取ったエンジニアが社内で処分されることがあるかもしれません。

SLAが形骸化して「こないだは対応してくれたじゃん」というように「それが当然」という既成事実が積み重なる可能性もあります。もっと言えば暗黙のSLA(という言葉もおかしいですが)ができ、しかもそれをベースに保守金額が決まってしまうかもしれません。そうすると書面どおりの仕事をする約束に戻そうとしたら保守金額を下げるよう言われてしまうかもしれません。

また担当者の在席状況により、偶数日は遅くまで障害対応がある、奇数日は担当者が早く帰るので翌朝の対応になることが多い、とムラのあるサービスになってしまうかもしれません。

どうやらアメリカではSLAというのはしっかりと守られるものであり、サポート時間外の障害は容赦なく無視されるという話を聞きます。反対に日本ではそういったことが「サービス」で行われがちです。医師はアメリカだと善意の行為が行われやすく、システムでは日本だと善意の行為が行われやすいようです。なんだか不思議な現象であるように感じました。

yohei

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コメント
oze 2009/05/25 17:21

キリスト教的には、ルールとか結果とか関係なく行動を起こす時のその思いが判断の基準なんではないでしょうか。

yohei 2009/05/26 22:27

oze様、コメントありがとうございます。
日本人はこれまで天災や病気などのリスクとなーなーで適当につきあってきたわけですが、キリスト教的な見方からすると神の試練だとか契約だとかそういうしっかりとした考え方があるんではないかと思います。どこまでが自分の責任で、どこまでが他人の責任か、というところについてよく考える文化があるように感じられます。
日本はそのへんのしっかりさだけを輸入してしまったので、モンスターペアレントにしろ新型インフルエンザにしろ緊急時の医師による治療にしろ「とにかくお前が責任とれ」みたいになってしまうんでないでしょうか。


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