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ピープル・クラウドは赤ペン先生の発展形?~IBM developerWorks~

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先日、IBM developerWorks ブロガーズ・ミーティングが開催されました。その中でIBM社の"Global Technology Outlook 2009"の話を聞くことができました。主な話題は以下の6つです。

  1. デジタルエコノミー
  2. データに基づくスマートな意志決定
  3. サービスの質
  4. クラウド
  5. セキュリティ
  6. ビジネスに変革をもたらすハイブリッドシステム

この4点目のところはよく聞くところのクラウドです。それ以上の意味を持つものではありません。クラウドというと定義があいまいな言葉ではありますが、私がもっとも正確に感じる定義である米IBM社のリサ・ヌーン氏の言葉を紹介します。

「ネットワーク設備やシステムリソースを事前に用意しておき、ユーザの要求に基づいて弾力的に割り当て(プロビジョニング)、迅速にサービスを行うコンピューター・リソース運用の自動化のこと」

《日本IBM》 ベールを脱いだクラウドコンピューティング戦略 <http://itnp.net/category_betsu/8/2334/

弾力的な割り当てが可能かどうか、それがクラウドのもっとも特徴的なところであると言えるでしょう。今回のミーティングではクラウドも6つのレイヤーに分けられることが紹介されました。

  1. ピープル・クラウド
  2. ビジネス・クラウド
  3. アプリケーション・クラウド
  4. プラットフォーム・クラウド
  5. インフラストラクチャー・クラウド

最後から順番に簡単に紹介していきます。

インフラで最もわかりやすい例はストレージサービスであり、IaaSと呼ばれるものであってAmazon S3となります。

プラットフォームの例としては実行環境があり、PaaSと呼ばれるものであってGoogle AppsでありAmazon EC2などが挙げられます。

アプリケーション・クラウドはもっともよく知られるクラウドの一形態であり、SaaSが該当します。Oracle OnDemandやSalesForceなどが該当します。

そしてビジネス・クラウドというとこれまで行なわれてきた企業間連携との区別がわかりづらいところですが、自分がしている中でもっとも「ビジネス・クラウドらしい」事例というと化学物質関連のビジネスです。化学物質はその発見と性質や構造の決定においても膨大な研究リソースが投下されますが、いざ役立つ物質であることが判明した際には「大量合成」のための研究にまた大変な手間がかかります。数年前にはタミフルの備蓄が足りないと言われたことがありました。あの原因のひとつにシキミ酸という物質がないとタミフルが作れない時期があり、シキミ酸は主に中華料理の香辛料である「八角」から作られていました。しかし研究が進み遺伝操作した大腸菌を使うことでシキミ酸の大量合成に道筋がつき、タミフルの生産量は増加しました。

この「研究が進み」の部分において、化学物質を高収率で大量合成する経路を考えることに特化した企業があるそうです。肝心なところで記憶があいまいなのですが、ターゲットとなる物質の情報を公開し、一番乗りした企業が報酬を得るようなオープンなスタイルを取っているという話を聞いたことがあるような無いような。(日経ビジネスで見たような……。)それはなかなかクラウドっぽいと思いました。(詳しい方がおられましたら教えてください。)

ちょっとこの例えは微妙なので身近な例をもうひとつ。コンビニのおにぎりは大量にある工場で作っているのですが、昨今の食品関連の不祥事のために洗浄やラインチェックが大変厳しいそうです。コンビニのお弁当は通常1日に3回納品されますが、せっかく1日は24時間あるのにラインチェックの時間を考えると8時間×3セットで生産するわけには行きません。また、生産能力が一時的に向上のキャパを越えることも考えられます。そこで直営の工場以外にも協力関係にある工場をいくつか抑えておき、ある程度オンデマンドに製造を委託できるような体制が整えられているんだったかこれからやろうとしているんだったか、ここも肝心なところで曖昧なんですがビジネス・クラウドというとそんな感じだと理解しています。

そしてタイトルのピープル・クラウドです。これは人間の力をクラウド的に活用していこうという話です。これはまさしく赤ペン先生的発想であるといえるでしょう。赤ペン先生はベネッセの登録商標ですが、一般名詞的に使用させていただきました。ですので以下の文章は実際にベネッセで行なわれている/行なわれていたサービスと異なる可能性があります。

  • 赤ペン先生では生徒の回答が先生のところに送られて採点され、助言が書き込まれて返送されます。
  • この点において生徒は先生の素性を知る必要がなく、またサービスの質が変わらなければ先生が変わっても困ることはありません。
  • また、英語や国語や数学といった各領域で異なる先生を選ぶことができ、選び方によってはそれぞれ最高のサービスを受けることができます。
  • 普段は中学生レベルの科目を教える先生を選び、たまに高校生レベルを教える先生を選ぶこともできます。反対に先生のレベルを下げることもできます。
  • 先生側も英語だけはできるけど他の科目はまったくできない人も先生になることができます。
  • 先生はいつでも参加でき、いつでもやめることができます。バイト感覚でもできますし、正規の先生と変わらない感覚で挑むこともできます。
  • 採点と助言の仕事量および報酬は1人分ならば少ないですが、複数の生徒を受け持つことにより少ない仕事量で多くの報酬をあげることができます。間違うパターンは似ていますし、様々な教科に精通する必要はないからです。
  • 運営システムとしてはある日突然あてにしていた先生がいなくなってもいいように、1つの答案は2人以上の先生に送るようにしておきます。

特に最後の運営システムのところについては、ミーティングでもクラウド全般の話として「クラウド管理レイヤ」というものが紹介されていました。その場では詳細な説明がありませんでしたが、例えば暗号化を行なうなどの機能を担当し、安全にクラウドサービスを利用する体制を整える役割を担います。

上の赤ペン先生の例においては高可用性を保つ役割を果たしています。クラウドというとネットワーク障害や破綻などのリスクに不安がありますが、例えばSLAで稼働率99%のサービスA,Bと99.9%のサービスCがあり、AとBが月10ドル、Cが月50ドルだったとします。もしクラウド管理レイヤ(こいつは落ちないと仮定)がサービスAとサービスBに同じデータを配信する機能を持ち、社内の人間はクラウド管理レイヤにデータを更新するとしたら20ドル+管理レイヤの運用コストで可用性が99.99%のシステムを構築できることになります。すごいぞクラウド管理レイヤ。

こういった「既にあるクラウド的サービス」はおそらく日本中にごろごろとあるはずで、勢力を弱めつつある卸売業の方なんかは様々なノウハウを持っているんじゃないかと思います。私が就職する前には卸売業主導による小売業の共同システム構築なんていう話があったはずですが、そのときの勢いをまた盛り返してくれたらおもしろいのではないでしょうか。何しろ商売のやり方については手形にしろ御用聞きにしろ日本だけで独自にかつ高度に発展したおもしろい仕組をたくさん持っています。そういったものをクラウドサービスにして提供していけたらどんな世界になるでしょうか。そういったロマンを感じさせてくれるミーティングでした。日本IBMご関係者の皆様、お招きいただきましてありがとうございました。

ちなみに業務連絡になりますが、私が口走っていたIT業界の人材不足に関する記事はこちらです。

第4回 システム屋にとって好都合な「IT人材不足」
ITpro <http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090311/326385/

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