ロストジェネレーションによる「敵対的」買収
10月の個人投資家の株式の買い越し高が1982年の調査開始以来の最高となる9927億円だったそうです。ロスジェネ世代の私から見ると、この裏には何かの怨念が渦巻いているように思えるのですが皆さんはどう感じられますか?
まずこの1兆円買い越しのニュースを聞いて、多くの人が株を買ったということがわかります。個人投資家の内訳は富裕層、お年寄り、サラリーマンなど多岐に渡ると思われますが、私は1つの調査結果を思い出しました。2008年2月に行なわれたマクロミルの調査によれば、若者が貯金ばかりして旅行や車の購入にお金を使わないそうです。
元となるマクロミルの調査を見てみますと、「今後(も)積極的にお金をかけたいもの」というアンケートで1位が貯金(44.2%)になっています。そして下位のほうを見ますと「金融商品(14.7%)」とありました。ということは株やFXなどの金融商品は貯金と別ですので、貯金の内訳は普通預金、定期預金など流動性の高いものになっていると思われます。
となると、若者は2008年以降は貯金をしようと思いつつも金融商品にはあまり手を出す気がなかったようです。ここからは私の憶測ですが、こういったニュースもありました。
株価の下落をきっかけに、ネット証券各社で申し込みが急増したそうです。ネット証券に新たに申し込んだ、ということはその時点では証券口座を持っていなかったのだと考えられます。また、年齢の高い層はネット証券よりも従来の証券会社を好む比率が高そうですので、これは若者が中心となっているのではないか、という予測が成り立ちます。
すなわち、先行きに不透明感を感じて貯金に走っていた若者は、低金利や先行きの不透明感により金融商品にお金を注ぎ込む事はあまりしない傾向にあった。ところが世界的な株安という明確なイベントが発生したことで「買い時」を実感して株購入に回ったのではないか、ということです。
株だけでなく、投資信託や外貨預金などにも若者マネーが回ったものと思われます。ただし、ロストジェネレーション世代にとっての「株購入」は一味違う心理を含んでいるように感じます。それはお金の使い道に「貯金」と答えてしまう心理と表裏一体のものです。
ロストジェネレーションと言われる30歳前後の若者は就職活動で氷河期を経験しています。中にはひどい圧迫面接を受けたり、意中の企業の採用数がとても少なくて苦労したり、選考がとても長引いたりとあまり良い経験をしてない人もいたことでしょう。
そういった経験で企業に対する不信感を得てしまった若者は無事就職しても晴れた気分になれません。企業の将来を明るいものと考えず、いつまでも自分の面倒を見てくれると信じられず、バブル期に入社した先輩の金遣いの荒さを一歩引いたところから見てしまうところがあります。そして自分は海外旅行やブランド品にお金を使わずについ貯金をしてしまう、という傾向が生まれます。また、就職活動の時期に特定の企業から受けたひどい仕打ちに対して「恨み」を抱いている人もいると思われます。
そしてこの株安で状況が変わります。自分を落とした企業、自分のライバルを採用した企業、憧れていたのに「今期は技術職以外は採用ゼロです」と言い放った企業、そんな企業の株が以前の半額から3分の1で売られているのです。しかも手元には入社以来毎月積み重ねてきた現金が。
ということで「敵対的」買収をかけます。自分のお金を使っているわけですから元手が増えて欲しいという気持ちが根底にはありますが、ちょっとむかつくあの会社を所有してやれ、というダークな気持ちに基づいた株の購入動機が生まれます。
今のような全面的な株安の場面では潰れる心配が低い事さえ担保されればどこの企業を買ってもそれなりの株価上昇が見込まれるでしょう。また、現役サラリーマンであれば銘柄選びに十分な時間をかけることは難しく、印象で選んでしまいがちという傾向もその気持ちを支えます。
そこで、心にひっかかりのある「あいつ」を買い取って一部所有してやろう、わはは。俺は社員より偉い株主だぞ!という答えを見つけてしまった人がいるのではないでしょうか。はい。私もスズメの涙ですが買いました。マルチェリーナになったような気分で開設したばかりのネット証券の口座からポチっとしました。今日のブログはさも若者の全体論のような口調でしたが全部自分のことでした。
日本の個人投資家と言えば高齢者が中心であり、ここで考えたロスジェネによる投資額などは全体に比べて割合が低いでしょう。しかしながら少なくとも単元に達していれば株主総会に参加する権利はあるわけです。「株式を所有することで見返してやる」という怨念が多い企業では、次の株主総会は従来の日本の個人投資家のイメージを描き直して挑む必要がありそうです。
ひょっとしたら2009年の6月最終木曜日は「今日は会社休みます」という若手社員が増えるかもしれません。