レースは走る実験室
今日のF1の試合は見ていてスカッとしませんでした。世界中の有名自動車メーカーの技術が結集したこの大会でもお天気だけは思い通りにならないものですね。個人的にはマシンがいつもよりゆっくりカメラの前を通過するので、細かなところまで観察できて楽しかったです。
参入している自動車メーカーにとってF1というのは広告という役割が大きいと思いますが、一方でF1で得られた技術を量産向けの技術に展開している例も少なくないようです。私は以前ホンダのビートという軽自動車に乗っていました。ビートのエンジンは660ccながら、パワー不足を感じる事があまりありませんでした。その主な理由として、MTRECという技術が関係しているそうです。これはアクセルの踏み具合とエンジンの回転数によってガソリンを噴射する量を制御して馬力を出すという技術でして、F1で生まれたものだそうです。同様の技術であるVTEC(ブイテック)のほうは環境技術としても有名になっています。ビートは良い車でした。2000ccクラスの普通の自動車に乗っていると市街地でアクセルをぐっと踏み込む機会などまず無いのですが、ビートならば60km/h制限のちょっと広めの国道に出たらガツンとアクセルを踏んで7000rpmくらいまでエンジンを回しても危険運転になることはありません。むしろ高速道路の合流などはアクセルとギアの操作に真剣にならないと怖いです。そのへんはビートやホンダの軽トラを運転した事がある方はよくわかると思います。 パワー不足を感じず、かといってパワーが有り余ってすぐにスピード違反、ということもないので街乗りにはもってこいの車でした。海が見える道や山奥の林道をオープンで走った時の気分は最高です。今日みたいな天気だと雨漏りしやすいですけどね。
話が横道にそれましたが、ホンダ自動車の本田宗一郎氏は「レースは走る実験室」と言ってレースを好んだそうです。確かにF1レースのような過酷な条件下で技術と技術を競わせることはメーカーにとって大変有益なことです。レースで勝つ事を目的にして開発された様々な技術のうち、ビートのMTRECのように世間でも役に立つ技術があるかもしれないですし、市場に販売するときも「F1で磨かれた技術!」というような謳い文句をつけることができます。また、レースは何が起きるかわかりません。晴れた日に最高の性能が出るエンジンを作ったとしても、今日のような雨の中では1周もできずにリタイアしてしまうかもしれません。そういった「何が起きるかわからない」環境でも生き残れる技術というのは、誰がどう使うかわからない市販車に使うのに適しているのでしょう。
ITの現場では、多くの企業が生き残りを賭けた競争に勝つためにIT投資を行っています。そういった中で新技術が生まれたり、効果的な技術と技術の組み合わせが発見されたりしており、生き残ったものが世の中に広まっていきます。例えば少数の高性能サーバへの集約と、普通のサーバを複数台組み合わせたグリッド構成ではどちらにメリットがあるのかという比較は、導入企業同士の業績を分析することで「どういったケースならどっちがお勧め」ということがはっきりするでしょう。 「こういう場合はこの技術」というお約束はメーカー主導でお薦めする場合もあれば、非メーカー系のSIerが自分の経験からお薦めする場合もあります。しかしレースと一緒で「何が起きるかわからない」という性質があるからか、「枯れた技術」と呼ばれる熟知されたやり方が好まれる場合もあります。導入実績も豊富であり、ある程度の効果が約束できるからです。レースで言うと「完走しなくては意味が無い」という考え方でしょうか。
最近では合理化や効率化と言った守りのIT投資だけでなく、これまでできなかった新しい事を実現するための攻めのIT投資が多くなっています。そういった場所では企業同士のIT技術とIT技術がぶつかりあっており、「ちょっと良いな」というサービスがすぐにライバルに真似されたり、もっと良くなって導入されたりします。(最近はネットでピザも注文できるんですね。)そういった点ではIT業界もちょっとF1に似ていると言えるかもしれません。今日のF1の試合を見ながら、そんなことを考えました。