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IT人材の先物市場

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世界陸上が盛り上がりを見せていた一方で、
中部大阪商品取引所の大阪取引センターで行われていた
場立ちという取引の歴史がひっそりと幕を引きました。

場立ちというのは手のサインで売買の注文をやり取りする手法で、
古くは大阪の堂島に立った米取引の市場に端を発します。
ここで300年近く前に世界初の先物取引市場が生まれました。

細かくは専門の書籍に譲りますが、武士が領主から給料をもらう際、
米の現物でなくて米の受取チケットが使われたことが始まりです。
その受取チケットを米俵と引き換えて、その米俵を現金化すると
手間がかかってしまいます。そこで米の受取チケットをいきなり現金で
買い取ってくれる人が求められました。

一方、農家でも米俵を税務署にあたるところまで
運んでいくのは大変ですので、事前に米の受取チケットを
現金で買い取っておきます。そして季節が来たら税務署に提出します。
そして米の現物は好きなタイミングで売り払います。
米を売って得た収入でまた米の受取チケットを購入する事ができます。

先物取引と言うと証拠金を差し入れてその10倍とか100倍の
取引が可能であるところから、大儲けをする一方で大損をするという
危険な金融商品であるという認識が一般的であるように思います。
また、昨今の石油の値上がりが石油先物市場によるものであったり、
食料品の値上がりがバイオエタノール需要を見越した
穀物の先物価格の上昇によるものと考えられたり、
悪者視されることが多いようです。

確かに大阪の米市場でも米の買占めにより米価格が暴騰するということがありました。
その都度、幕府による介入や米問屋の襲撃などにより解決されてきました。
先物市場の誕生からそのような現象が発生しているということは、
コインの表と裏として仕方のない事なのかもしれません。
それでも先物取引は、生産者である農家や直接の消費者である食品メーカーなどの
「当業者」にとってメリットが大きな取引です。

例えば、小麦を作る農家がいたとします。
通常の場合1キロ100円で買い取られるとします。
しかしある年は猛烈な豊作で1キロ10円になってしまいました。
そうすると資金不足になり翌年の種や肥料の購入や農業機械の買い替えなどに支障が出ます。

そこで小麦農家は小麦の種を蒔くくらいの時期に先物の売り契約をします。
「収穫の季節になったら1キロ90円で10000キロ買ってください」
というお願いを先物市場で行います。
そうすれば、平均的に見れば1キロ100円で流通するはずの小麦が
単価あたり10円安く手に入ることになりますので、購入したい人が出てきます。
この年、1キロが100円で収穫されれば農家が単価あたり10円損します。
ものすごい不作で1キロ500円になったとしたら、農家は単価あたり410円も損をしてしまいます。
ものすごい豊作で1キロ10円になったとしたら、農家は単価あたり80円の得をします。
1キロ90円で100キロ買ってくれという契約を最初にしておけば、
その売買契約が成立した時点で900000円の売り上げが確定します。
翌年の運転資金が100万円くらい必要なのであれば、この先物売り契約を行う事で
ひとまずは安心することができます。
このように、生産者にとっては値崩れ時のリスクを抑えることができて便利なものです。

また、パン屋さんがいたとします。
通常の場合1キロ100円で小麦を仕入れていたのですが、
ある年は猛烈な不作で1キロ500円になってしまいました。
そうするとアンパン1個100円という価格設定が不可能になってしまいます。
作っても高くて売れない、作らなくては食っていけない、
しかし仕入れ価格が高すぎる、という困った状態です。

パン屋さんの場合は農家から先物売り契約が出る季節に先物売り契約に応じて買い契約を行います。
1キロ90円で10000キロ売りますので誰か買ってくださいという契約に応じたとします。
もし1キロ100円で収穫されれば、10円の得をします。
1キロが500円になってしまった場合は410円の得をします。
ものすごい豊作で1キロ10円になったとしたら、80円の損をしてしまいます。
消費者の場合も1キロ90円で買った10000円分の小麦から作るパンの個数分だけは
確実に生産することができますので、売り上げを確かなものにすることができます。
(パン価格は小麦ほど上下が激しくないはずです)

基本的にはこの両者で市場が成立します。
しかし現実の市場にはこの両者以外の人が入ってきます。
現実ではこの両者以外の人がいないと取引が回転しないようです。

まず、第三者が「今年は太陽の黒点運動がどうたらこうたらなので
絶対に小麦が不作になる」という神のお告げ等により投機的に参加する人たちがいます。
宝くじを買うような気持ちで参加するような参加者は投機家と言われます。
この人達は現物を必要としませんので、実際に買い契約が成立したら
買う権利だけを転売して現物を手元に受け取る事はありません。
そういうことができますので、「豚」や「牛」などの先物売買に
一般人が参加したからといって最終的に家で牛を飼うはめになる、ということはありません。
農家のドアを叩いて「明日までに豚を一頭売ってください」とお願いして回る事もありません。

また、パン屋さんの株を大量に保有している個人投資家がいたとします。
小麦が猛烈に値上がりするとパン屋さんの業績は下がります。
そうすると個人投資家が保有する株の時価が下がってしまいます。
そのリスクをヘッジするため、先物買い契約で小麦を安く買う契約をしておきます。
もし小麦が値上がりすると、パン屋さんの株が下がって損をしますが、
その一方で安く買う契約をしたことにより小麦をお値打ちにGETできますので、
それを売る事で差益を得られます。こう言った参加者をヘッジャーと言います。

日経225などに代表される一見して意味不明に感じられるような
実体の無い商品が売買されるのは、株式の売買を行っている人が日経225などを反対の
売買契約をしておくことですることでリスクヘッジが可能になるからです。

当業者、投機家、ヘッジャーともう1人、アービトラージャーと言われる参加者もいます。
この人は何らかのチャネルを通じ、ある場所で安く売られている商品が
ある場所に持ち込むと高く売れることを知っている人です。
一物一価の法則により、長い目で見ればある商品の値段は1つに落ち着きます。
しかし落ち着くまでの過程で高いところと安いところが生まれます。
それをいち早くキャッチして価格差を儲けに変えることを裁定取引と言い、
それを実行する人を利ざやを稼ぐ人と言う意味でアービトラージャーと言います。

嘘みたいな話ですが、江戸時代の大阪の米市場の価格はある方法により
かなり高速に伝達されたそうです。江戸時代の情報手段と言えば飛脚や早馬ですが、
高い山と高い山をつないで手旗信号のような仕組みで価格を送受信することができたようです。
そうすると遠隔地からもコメ市場の先行きを知ることができるようになります。
「近い将来、今の大阪の高い米価格が日本中に波及するな。
じゃ、今目の前にある米俵が割安なので大量に買っておこう」ということができます。
インターネットも電話も無い時代にそれを実行すれば
あっと言う間にとんでもない金額の利益が出る事でしょう。
映画版ロードオブザリングでゴンドールがローハンの応援を呼ぶシーンがありましたが、
やり方はあれと同じようなものだと思います。
もしくはブラックホークダウンで米軍のブラックホーク発進を伝達したシーンをご想像下さい。

ほとんど先物取引講座のようなエントリになってしまいました。
さて、プログラマやSEと言った人材もある時期に何人くらい欲しくなりそうだという計画があり、
時期により微妙な単価の上下動もあります。
確かに微々たる単価の上下動よりも決まった期日に決まった人数を調達したいとう
要望が大きいと思います。また、なんといっても優秀な人材に来て欲しいというのが
一番強い要望であることは間違いないでしょう。
しかし、ある一定以上のスキルを備えた人間を頭数だけ揃えたい時のことを考えると、
先物市場が立ってもおかしくないくらいに条件は揃っているように思います。

例えば半年先にRubyの技術者が6人必要になることがわかっており、
現在募集すると月単価が100万円で調達できることがわかっているとします。
半年後にはおそらく150万円ほどになっているような気がするのですが、
今の時点で「半年後から120万円で働きたい人募集!」と声をかければ
人を集められそうな気がしてきました。それならばヘッジのために
120万円で2人だけ募集してしまおう、という目論みはどうでしょうか。

もちろん声をかける場所、すなわち先物市場にあたる場所も必要です。
小麦を売る契約で小麦を現物で相手に引き渡せないような場合は
先物市場が損時点での現物価格を決定し、相手に現金で同等の金額を支払って
決済を行う事ができる仕組みがあります。例えば小麦を100キロ10000円で売るという
契約をしたものの、あまりにも不作すぎて50キロしか取れなかったとします。
他の土地でも不作なため、市場価格が1キロ1000円になっていた場合、
残りの50キロを市場で調達して現物納付するか、50キロ×1000円で50000円を
支払わなければなりません。人材が調達できない場合はそれに見合うだけの
金額を支払うように命令してくれるような市場の運営者が必要です。
また、等級という考え方もあります。小麦だったらうまかろうかまずかろうが
同じ価格では不公平がありますので、格付けられた品質のものを
用意するということが決まっています。約束の品質と差異が出た場合には
市場が指定する差額を調整しなくてはなりません。
Ruby技術者だって言ってるのにPerl技術者が来たら……差額という問題ではないですね。

IT人材の先物市場が立ち、このような取引環境が整備されれば
働く人は仕事場を見つけやすくなりますし、働いて欲しい人は
人材の調達計画を立てやすくなります。
ちょっと人身売買をしているような香りがするのが気になりますが、
いつの日かこのような仕組みが現実のものとなる日が来るかもしれません。

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