パトレイバーと企業倫理
今週はNHKのBS2で押井守監督の作品が毎晩放映されています。
時間があればすべて見たいところですが、
夜更かしで仕事に差し障りがでるといけませんのでぐっと堪えました。
機動警察パトレイバーという映画があります。
part1とpart2が押井監督の作品です。
パトレイバーシリーズは、レイバーというロボットが活躍する世界の話です。
レイバーは重労働に利用され、建設工事や戦争などの現場で
活躍しています。レイバーによる犯罪はレイバーでしか対応できないため、
パトレイバーという警察用レイバーがあります。そういうアニメです。
以下、ネタバレですのでご注意下さい。
part1では、レイバーが採用するHOSというOS(基本ソフト)に
ウイルスが埋め込まれていたというような話があります。
part2では、自衛隊のレーダーシステムがハッキングされて
自衛隊の戦闘機が味方の戦闘機を撃墜しそうになります。
また、妨害電波と通信インフラの物理的切断により
都心が情報の孤立状態になり、警察と自衛隊がお互いに
「クーデターを起こすのでは?」と疑心暗鬼になることで正面衝突しそうになります。
映画という非日常の世界での出来事ということもあり、
パトレイバーに出てくる情報システム犯罪は超弩級のものです。
こんなことあるわけないよ、と思ってしまうところなのですが、
それが現実に起きているかのように感じられてしまうところが
この映画のすごいところでしょう。
しかも作成されたのが10年以上も前というのが信じられないくらいに古臭さを感じさせません。
(part1が1989年。part2が1993年)
その当時はきっと情報システム犯罪というのはあまり身近ではなかったはずですが、
最近はそう言えない状況にあります。先日、自分のブログで
- 違法な行為を助長すれば犯罪をほう助した罪になる。
- 不正アクセス禁止法などシステムに関する犯罪を取り締まる法律に引っかかる。
- 技術士は技術士法の信用失墜行為の禁止などの項目に引っかかる。
というテーマについて考えてみました。
ちょっとそれはまずいんでない?というシステムを構築しろと言われたら、
エンジニアは自分の良心以外で何を根拠にしたらいいか?という内容です。
パトレイバーでHOSにウイルスを仕込んだり、自衛隊のシステムをハッキングしたり、
都市に飛行船を浮かべて電波をジャミングするのも思いっきり犯罪行為ですので、
法を根拠にする事で迷わずやってはいけない事だと判断できます。
先日、「永井孝尚のMM21」で永井さんが
IBMビジネス・コンダクト・ガイドライン(BCG)がWebに掲載
というエントリを投稿しておられました。
多くのITエンジニアは企業に所属していますので、
自分が所属する企業の行動指針を遵守しなくてはなりません。
禁輸品を輸出して処分を受けた企業がありましたが、エンジニアでも同様に
時に利益目標達成のために倫理を捨てる人が現れるかもしれません。
そういった形で技術を悪い事に使ったり、やってはいけない商取引をしたりする人が
出ないようにするため制定した指針も、社員にとっての判断材料になります。
違法では無いけれども社会通念的に許されなさそうな仕様のシステムを開発するよう
お客様に依頼されたとしたら、個人的な考えから
「そんな仕様は私の良心が許しません」と言えるでしょうか。
例えば、マスコミ報道から犯罪が起きた地域を集計するシステムを構築し、
不動産業界向けに販売したいという引き合いが来たらどうしたら良いでしょうか。
現実的にはそんな仕様に出くわす事はないと思います。しかしもし起こってしまったとしたら、
IBMであればBCGが「拒絶したほうがよい」と判断する材料の1つになる事でしょう。
最近起きた大きなコンピュータ犯罪というと
株価操作スパム、1日で30%の激増 かつてない規模へ
が思い浮かびます。「この株は大人気だよ」というSPAMを送る事で
実際の株価を操作してしまうものです。以前からある手法だったのですが、
それなりに効果があることが認識されてきたためか、激増してきているようです。
この事件の問題は、本来は異なる企業に向けられるべきだった資金が
SPAMにより誘導されて特定の企業に集まり、SPAM送信元の人物に
株価上昇益をもたらすという点です。同じ市場にいる企業は損をしてしまいます。
更にもう1つ挙げるとすれば、「これはSPAMだな」と認識したとしても、
「SPAMに騙されて株を買う人が出るだろうから、値上がりする前に買っておくか」
と判断して株を購入するという人が出る事です。
この人は騙されて株を買っているわけではなく、SPAMをSPAMとして
認識しつつ株を買っています。これまでもマスコミの誤報や、出所不明のデマを
誤りだと認識しつつも、市場インパクトを予想して敢えて取引に応じるという人はいました。
マスコミの誤報はゼロにすることは難しいです。これは利益を目的としたものではありませんが
誤報とわかっている人が、誤報と知ら無い人を中心に株価が上がるだろうと予測して
早い段階で株を買い込むことは良くない行為であるように思います。
デマや仕手行為による株価操作の場合は、確かに自分も儲かりますが、
活況の一端を担う事で悪意を持った首謀者に利益を与えてしまいます。
SPAMの尻馬に乗ることは、まさしくこの行為と同じ事です。
企業倫理のあり方と同じく、自分さえ儲かればそれでいいのか?という疑問を感じます。
きっとこの犯罪の逆バージョンとして、『怪文書SPAMを大量送信されたくなかったら
うちにお金払ってね。そしたらやめてあげるよ。』というスパマーも現れる事でしょう。
もし自分の会社が怪文書SPAMによる株価引き下げの脅迫に遭ったとしたら、
そういった場合にもまたBCGや企業行動規範の出番だと思います。
安易に応じては犯罪者に利益をもたらし、増長させることになってしまいます。
倫理に関する規定はそのような「いざ」という時に判断の拠り所になるでしょう。
明文化して普段から周知しておくことで、苦しい決断も下しやすくできると思います。
総会屋決別宣言のように「何があっても絶対に脅迫行為には屈しません」と内外に
喧伝していれば、そもそも標的にすらならないかもしれません。
パトレイバーのpart1では、HOSに不具合があったことを
公表するかしないかで話し合う場面があります。
結局はレイバーを作るメーカーの社長の息子であり、
警官としてパトレイバーを運用するチームの1人でもある篠原遊馬の努力により
不具合は公表されます。
また、押井監督の作品ではないですが、第3作にあたる『WXIII 機動警察パトレイバー』も
生物学の研究者が倫理的に問題のある研究を進めることで
バイオハザードが起きてしまうという話です。私はこの作品が一番好きです。
パトレイバーはパトレイバーとして楽しめる映画なのですが、
企業のあり方、エンジニアとしての倫理観の持ち方などに
視点を切り替えてみると考えさせられるところも数多くあります。
ぜひ一度ご覧頂き、アニメとして楽しみつつ、エンジニアとしてどう働くべきか、
企業はどうあるべきか、というところを考えてみてはいかがでしょうか。
(参考)放映スケジュールは以下の通りです。
8月10日(金)午後11時~午後11時24分5秒 OVA「機動警察パトレイバー」1
8月11日(土)午前2時51分~午前4時44分40秒 「機動警察パトレイバー2 the Movie」