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Microsoftが医療情報の標準化を行うという報道への反応

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マイクロソフトが医療情報を標準化すると発表したのが7月11日でした。
これは日経新聞の朝刊1面で大きく報じられました。スラドにも載りました。
その際に医療情報システム関連の団体(主に2つ)から反発が出ました。
そして本日7月19日、マイクロソフトは7月11日の発表を修正して再発表しました。

(7月11日)
医療現場におけるIT利活用の推進を目指し、協議会を設立、およびIT体験プログラムを展開

(7月19日)
医療現場におけるIT利活用の推進を目指し、ラウンドテーブルおよびIT体験プログラムを展開

2つを見比べてみても、大きく内容が変わったわけではありません。
ただし修正版のほうがマイルドになっているような気がします。

この7月11日の発表は日経新聞の朝刊により
「医療情報システムはベンダーによりデータ構造がバラバラで非効率だ」
という前提のもとで、以下の2点についてメリットが主張されました。

  • マイクロソフトが主導して標準化を行います
  • それにより医療情報システムの導入費用を安くできます(最大5割程度)

そのことに対する反論がこちらです。

(日本HL7協会)
7月11日付日本経済新聞記事に関する問題と対応について

(日本医療情報学会)
7月11日の日本経済新聞朝刊一面のマイクロソフト社に関する記事および
同日のマイクロソフト社のヘルスケアの取り組みに関するプレスリリースについて

両団体ともにトップページの一番目立つところにこれらの意見表明ページへの
リンクが設けられています。HL7協会からは「侮辱だ」という言葉も飛び出し、
医療情報学会からも「各方面の標準化への努力などをまったく無視した考え」
などと言われています。関係の無い人が見ても一目見て
「とにかく怒ってるんだな」とわかることでしょう。

これらの反発を受け、7月13日には日本のマイクロソフトの幹部が
HL7協会に対して『深くお詫び申し上げます』と謝罪しました。
「マイクロソフトが主導して標準化を行います」
「それにより医療情報システムの導入費用を安くできます(最大5割程度)」
の2点についてマイクロソフトの意図ではないことを公式に表明しました。
その内容がHL7協会のサイトに掲載されています。
HL7協会のサイトから引用しますと
「弊社としましては、日本HL7協会の活動を始め、
各種医療情報の標準化活動に深く敬意を表すものであり、
引き続き協会活動に参加させていただきたく伏してお願い申し上げます。」
とのことです。

協会の名前であるHL7というのは医療に関連する様々な情報を
交換するためのフォーマットです。外国でも使用されています。
医療情報システムというのは各ベンダーが独自のデータ構造で
作ってきたという経緯から、システム間の接続が困難な傾向にあります。
そのため、このような規格が必要とされます。
問題の構造はCADのデータ交換に近いかもしれません。

そのような理由で医療情報システムは導入の費用が増大しがちです。
ここのところは報道が指摘していた通りだと思います。

医療情報業界では長らく病院の数だけそれぞれ独自のマスタがあるような
良くない状態が続きました。
しかし国策であるレセプト電算処理システムの普及に伴いマスタが整備されたり、
同じ病気を同じコードで管理するための国際疾病分類というマスタ体系が
整備されたりと言う事があり、標準化が現在進行しているところです。

既に医療情報システムが導入されている病院では、
病院内で完結する処理に関しては病院独自マスタで処理を行い、
病院外に出す場合は標準マスタに変換をかけるというようなことをしています。

病院で診察を受けた場合、レセプトと呼ばれる記録が作成されます。
これは、病院が受け取る診療報酬=診察や検査の対価が総額いくらになったかの請求書です。
この請求書は内容が適正であるか公的機関による審査を受けた後に健康保険の事務所に届けられます。
通常、病院に行くと3割の診察代を支払いますが、残りの7割は健康保険が支払います。
この資金は、普段支払っている健康保険料から捻出されます。

この残り7割を支払ってもらうための請求書がレセプトです。レセプトは電子化が進んでいるものの、
紙でやり取りされるものが主流です。紙では効率性や、データの再利用性がよくありません。
そのため、紙のレセプトを禁止してしまい、オンラインによる請求以外は受け付けないように
してしまおうというのが現在の流れです。このためには請求する側とされる側で
同じマスタを使用する必要があります。よってマスタの統一化が強力に推進される一因となります。
これが達成されれば国内の病院・診療所では軒並み電子化が進むと予測されます。
(少なくとも診療報酬請求に関連する医事会計システムは、ですが。)

ということが、医療情報技師の試験範囲だったりします。

私は初級医療情報技師です。(医療情報学会の会員ではないです。)
この資格は更新制でして、日本医療情報学界の会員になっていると
基礎ポイントが貯まります。会員になるだけでなく、医療情報学会に
出席すると追加でポイントが貯まります。更に学会誌に論文が掲載されると
大量得点が可能になります。ポイントが貯まっていない医療情報技師は、
更新ができません。セミナーを受講して足りない知識を補う事で
更新のためのポイントを補充する仕組みになっています。
日本医療情報学会はこのような資格制度を創設して、
医療情報システムを支える人材を育成する段階から努力しています。

日本の医療情報業界は、これまで数え切れない人々の努力により、
着実に進歩してきました。そしてこれからという時期になって
「私マイクロソフトと言いますが、なんかごちゃごちゃしてて良くないね。
仕切り直して全部持って行きますからよろしく!」
というように受け止められたこのニュースがどれほどのインパクトだったのか、
想像に難くありません。そら怒りますよね。
誤報ということで決着がつきそうなこの事件ですが、
「へー医療情報業界って色々と大変なんだね」ということを
多くの人に認識してもらえたことは良い事だったように思います。

Comment(2)

コメント

para

確かに医療関係者から見ると腹立たしい内容だと思います。
しかし外から見たときそう思えるのも当然だと思います。
というのも、医療業界のIT化について、IT関係誌に出ることは他業界に比べて少ないと思うからです。
主観ですが、どちらかというと他との交わりが消極的な感じさえします。
特殊な部分は多いと思います。しかし本当に全て特殊なのか、切り分けしていけば実は他業界の実績を有効利用できたりするのではないでしょうか。
医療業界から見る医療のIT化、IT企業から見る医療のIT化、どちらのアプローチがあっても面白いと思うのですが。

paraさん、コメントありがとうございます。
>主観ですが、どちらかというと他との交わりが消極的な感じさえします。
私も同じ事を感じていました。IT系の雑誌にはDBもルータもサーバもPCもSIerも磁気テープのオートチェンジャーも広告が入りますが、医療系の広告を見ることが少ないです。逆に医療系の雑誌にはレセコンや電子カルテの広告は多いのですが、普通のIT製品の広告は少ないように思います。その溝を埋めるための橋渡し役には、医師資格でも情報処理技術者資格でもない医療情報技師が果たす役割は大きいように思います。

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