日本の技術の強みは、総合力で発揮されるのでは
玉川さんの「日本の技術力っていうのは、やはりもうダメなのでしょうか?とある難問への回答」には感心しました。その状況下でそれだけ話せたのは、普段から考えていらっしゃるからでしょう。また、岩永さんの「「日本の技術力」というものの捉え方を考える」にも考えさせられました。
技術というかビジネス全体の心得として、フェラーリを含む数々のスポーツカー、ボーイングなど工業デザインを手がけて来られた奥山清行さんが山形大学の講演で、「来るかどうか分からない15分のための準備ができるかどうかが、プロかアマチュアか、と分かれ目だ」という話をされています。内容は5分程度ですので、ご覧になってみてください。
また奥山さんはCEDEC2011の講演で、新幹線の輸出に触れられています。
中国で事故が起こりましたけれども、こういう電車を使って時速500kmで走るというのは、実は技術的には極めて簡単なんですけれども、それを日本はあえてやらない。今まで数十年間、一度も事故を起こしていない日本の新幹線というのは、ハードウェアだけじゃなくて、そのオペレーションシステム、全てが合わさって初めて実は世界で非常にまれな価値を持つ新幹線というものになります。英語にもなっている「Shinkansen」という全体のシステムに価値があるんです。
奥山さんは、新幹線の車両単体が価値なのではない、と仰っています。我々が「技術」を何のことと捉えるか、によって違うかも知れません。ITのプログラミングを指すかも知れませんし、出来上がったシステムを指しているかも知れません。また、建築の技術かも知れませんし、日本古来の伝統芸術に使われる技術のことかも知れません。お神輿を作る技術も、釘一本使わないのですから、素晴らしい技術だと思いますし。
IT業界にいると「彼は技術力はあるんだけどね」という言葉を耳にすることがあります。「だけどね」という言葉の次には、「マネジメント力が無くてね」と言いたいのかもしれません。日本では、バランスを取ることを善しとすることが多いため、こういう意見が出てくるのでしょうね。徹底した技術バカのような人を好まない傾向がありますし。
なのであれば、何か単体、例えば新幹線の車両だけ売り込みに行くのではなく、安全な運行を含めた総合力を売り込めばいいのではないか、と単純に考えるほうがいいように思ったり。
ところがおかしいのは、後でお見せするアメリカの高速鉄道とか、ブラジルとか中国に売りに行く時に、日本人が一番その価値を分かってなくて、ハードウェアを売り込みに行こうとする。そうすると「うちの機械は時速320km出ますよ」と言っても「悪いけど中国の人は時速400km出てるって言ってるよ」とか。ハードとハードのプレゼンテーションをしてしまうわけです。ところがこれはカリフォルニアの政府の関係者から後で聞いたんですけれども、日本人が電車の売り込みに来てプレゼンテーションしていると、ちょうど……ちょっと危ない発言ですけど、北朝鮮がミサイル売りに来たみたいなもんだと。ハードの話をして性能の話ばかりするけれど、「僕らが求めているのはそんなところじゃない。僕らが求めているのは、これまで日本人が築き上げてきたシステムである。何で一緒に売り込みに来ないの」と。
日本は慎重すぎるという意見もあるようです。であれば、その慎重な結果が強みなのではないか、と思うんですよね。これはダメだ、あれもいかん、と批判するのではなく、本当の日本の強みってなんだろう、と。
痛くない注射針や、ハイブリッドカーの電池を小型化するための電池ケースの一体成型を成功させたことなどで有名な岡野工業の岡野社長が、「うちの会社には不良品を入れるケースは存在しない。不良品は出さないから要らないんだ」とおっしゃっていたことを覚えています。岡野工業のような金型製作工場では、不良品を置く場所があるのが当たり前なのだそうですが、岡野工業には存在しない。ということは、岡野工業が作ったものだけでなく、そのプロセスにも注目できますよね。
岡野工業さんは特例なのかも知れませんが、日本にはたくさんの総合的な技術力があると思うのです。海外メーカの部品提供も必要だとは思いますが、もっと総合力をアピールしていけるといいな、と思う次第です。