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シリコンバレー見聞録―その16 リーンとアジャイル開発の本場「PIVOTAL Labs」

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半年振りにシリコンバレー見聞録の続編をスタートさせたいと思います。シリコンバレーと呼ばれるベイエリアはまさにデジタルビジネスやオープン・サービス・イノベーションのメッカです。既知の話から日本ではあまり知られていないコトまで。このコーナーで少々連載したいと思います。

現在はデジタル産業革命の黎明期にあり、何十年に一度の大変革期で今後、5年、10年先を予測できないのは、過去の歴史を振り返れば明らかです。間違いないのは、ソフトウエアを中心とした未曾有の変化が相当のスピードで到来することであり、変革には3年や5年、10年といった単位の時間がかかると思われます。しかしその時間は決して長いとはいえません。

従来の基幹システムであるSoR(Systems of Record、Mode1)はクラウドへのLift&Shiftが課題であり、、SoE(Systems of Engagement、Mode2)ではクラウド上でのDevOpsとCI/CD(継続的なインテグレーションと継続的なデリバリー=本番運用)が重要になります。このようなデジタルビジネス環境を踏まえた上で重要な概念がアジャイル開発であり、リーンスタートアップへの取り組みです。

これまでこのブログでは、AmazonのPOP UP LoftやPlug & Play、SAPのHANAHAUS、Hacker Dojoを紹介してきました。今回は、サンフランシスコにあるPivotal Labsを紹介します。

■リーンとアジャイル開発の本場はどんなところ?

サンフランシコの観光名所として有名なあのユニオンスクエアガーデンにも近い市街地の古いビルにPivotal Labsはあります。

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《遠くに見えるのはSales Force タワー》

受付の女性は、いわゆる受付専門職ではなく、Labで働くみんなをサポートする役割を担っているワークプレイスマネージャというらしい。

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PivotalTealと呼ばれるイメージ色は世界共通

■Pivotalはどんな会社?

Pivotal Softwareは、2013年に創業したサンフランシスコに拠点を置くソフトウェア企業です。2010年に超並列処理データベース製品を開発するGreenplum社をEMCが買収、その後EMCは2012年にエクストリームプログラミングのコンサルティングを提供していたPivotal Labs社を買収しました。2012年、EMCの関連会社であるVMwareはCloud Foundryの開発をPivotalに移管し、Pivotal Softwareの原型が整いました。設立時にCEOを務めていたポール・マリッツは2015年に会長へ、Pivotal Labsの創設者であるロブ・ミーはCEOにそれぞれ就任しています。2015年には、マイケル・デル率いDELLがEMCを買収したことで、PivotalもDELL Technologies傘下となりました。

Pivotalは、コンサルティングサービスを提供するPivotal Labs、アプリケーションプラットフォームであるPivotal Cloud Foundry、そしてアナリティクス基盤であるPivotal Data Suiteを事業の柱としています。

■エンジニアに必要なものは、おいしい朝食

Pivotalでは、毎朝8:30から朝食が振舞われる。"腹が減っては戦はできぬ"ではないが、ペアプロで頭脳を酷使するエンジニアがしっかりと朝食をとる事は、すばらしいソフトウエア開発の必要条件なのだろう。

また、朝食を一緒に採ることで一体感を生み出すことも狙っているらしい。それは昼食も一緒で、同時に集中力を削がないように外出はしないのだと。「朝から夕方までは、雑音を排除してチームでの仕事に集中しきる」ための場所ということらしい。確かに疲れることなので「残業は一切しない」といううたい文句は良く理解できます。

読者視点で気になるのは、メニューでは?朝食も昼食も、無駄を承知でかなり気を配っているはず(選択肢が豊富)と思えます。日本の感覚ではもったいないと思えることです。メニューについても常に見直し(改善)をかけているそうです。具体的には、Pivotal社員とワークプレイスマネージャが合意の上決めているそうです。

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《ビュッフェスタイルの朝食はメニューも豊富》

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《筆者の朝食はちょっと欲張りすぎた》

■毎朝、9:06から始まるスタンドアップミィーティング

全世界共通で9:06からスタンドアップミーティングが始まる。なぜ、9:06なのか?と質問したら、朝食を食べて皆が集まれる時間が9:06だと説明された(笑)

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《スタンダアップミィーティングの様子》

■これが最先端のアジャイル開発の現場!?

サンフランシスコのPivotal Labsの第一印象は、どこかで見た懐かしい光景だった。そう、それは入社当時お世話になっていた富士通川崎工場(富士通発祥の地。元通信機器の工場)の雰囲気だ。

世界最先端のアジャイル開発ラボが、こんなにチープシックで良いのだろうかと驚く。このビルはPivotalのために作られたのではなく、古いサンフランシスコのSoMa地区(South of Market=マーケット通り南)のビルの2フロアなのだが、天井はパイプがむき出しで雑然とした雰囲気の中でペアプロ用のモニターが並ぶ。実利を優先しており、空調や照明といった環境には気を配っているらしい。

一方、事前に訪問していた東京・六本木のPivotal Labs Tokyoはショールームのようで個人的には綺麗すぎてむしろ落ち着かない。

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《着座スタイルと立ちスタイル》

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《標準的な開発者の机》

■米国で目の当たりにしたトヨタウェイ

アジャイル開発やリーンスタートアップには、ムダを作らない、継続的なカイゼン、小さなバッチサイズといった、トヨタのカイゼン活動を参考にしている点が多く、Pivotalにおいてもそれは例外ではない。ToDoリストやカンバンボードは日本でもなじみの光景だ。朝会(スタンドアップ・ミーティング)の最後に一本締め(正確には一丁締め:よぉー、パンっ)で締めている光景は日本人には新鮮であった。

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《3Mのポストイットは世界の大発明だと思う》

この"ソフトウエアファクトリー"のいたるところにご覧のような表示モニターが設置されていた。これは、そのソフトウエアの開発の進捗状況を示すもので開発者自らがどんどん進化させているという。赤く表示された部分が開発が遅れている部分で皆で共有して対処するのだという。

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《真ん中の写真に写っているザック氏は現在Pivotal Labs Tokyo(六本木)の責任者だ》

■2つのフロア

サンフランシスコのPivotal Labsは、4階と5階の2フロアに分かれている。ビルのエレベータでの行き来だけでなく、フロアの中央に下記のような上下フロアの行き来ができる階段が設けられている。

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《フロア中央にある両フロアを行き来する階段》

下のフロアでは、彼らの商用版のPaaSであるPCF(Pivotal Cloud Foundry)の開発が行われている。そして上のフロアでは、さまざまな顧客向け企業のサービスが開発されている。その光景は、まったく同じで昨日まで下のフロアでPCF(Pivotal Cloud Foundry)の開発をしていたエンジニアが今日からはお客様向けのサービス開発に従事するということも良くあることらしい。

いずれもペアプログラミングの手法でPaaSのプラットフォームも顧客向けサービスの開発も行なっているからできることらしい。これまでのソフトウエア開発では考えられないことだ。

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《何やら記念のスケートボード!?》

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《古いながらも工夫したフロア。ちょっとした寛ぎを与える場所もある》

■開発者のために至れりつくせりの環境

"すべては開発者のために!"という言葉が、あるかどうかはわからないが、いたるところに工夫が凝らされている。開発に必要な機材は、モニター(カッコ良いのは、やはりApple)からキーボードまでフロアの備品コーナーに整理され、貸し出しされている。

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《決して新しくはないが整然と並んだ開発に必要な機材》

これは、男子トイレの写真だが、髭剃りや歯ブラシに加えて、さすがペアプロの相手を気遣うリステリンが常備していることには驚いた。この地区の高級ホテルでは、朝食はもちろん、髭剃りもなかった(某日本の航空会社系列)。それが普通の地区で決して綺麗ではないが、必要なものを揃えていることに共感した。

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《ホテルに歯ブラシがなかったので思わず利用させてもらった》

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《dysonの乾燥機はじめて見た!》

■ペアプログラミングに必要なスポーツ!?とは

朝から晩までパートナーと共にペアでプログラミングを行う。途中、やはり息抜きしたくなるのは常でそんな時のためにこの卓球台があるのだという。息を合わせて長時間ラリーができるようなペアは、ソフトウエアの生産性もきっとすばらしいコンビとなるのであろう(Pivotal Labsでは、1日最低1回、できれば2回卓球をやることが義務付けられているそうだ)。

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《各フロアに卓球台が複数台セットされていた》

定時後、蚊帳のようなネットの中で歓声をあげながらラリーを繰り広げるエンジニアが印象的であった。卓球台のそばにはご覧のようなドリンクコーナーがあり、ソフトドリンクだけではなく、地ビールが飲み放題だった。

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《やはりこのような時は土地のものを飲む(笑)》

■人や企業文化をAgile型に考えるには?

さて、本場のPivotal Labはいかがであったであろうか。このような施設や手法を取り入れないとデジタルトランスフォーメーションは実践できないのか?という疑問はついてまわる。多くの先進的実践企業は、口をそろえて"社内カルチャー(文化)を変えるのに苦労した" "人材のの醸成"がポイントという。

アジャイル開発やリーンスタートアップは、元はといえばトヨタのカイゼンの取り組みや道場をリスペクトしており、日本の企業文化にも馴染みのある取り組みであるはず。次回は、先進企業の取り組みを通じてこのあたりの可能性を探ってみたい。

(つづく)

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