通信手段の確保がDisaster Recoveryの重要項目として理解されにくい理由
先週は医療関係のイベント出展のサポート。通信事業者が売り込むのは当然通信手段なのですが・・・
空気みたいなものだから忘れてしまう存在
通常、通信手段というと電話だったりデータ通信だったり、もちろんインターネットへの接続もそこに含まれます。企業や個人が何かの活動をする場合、何らかの通信手段を使うことが非常に多いのは説明の必要が無いと思います。
ただ、殆どの場合、その手段は普段の全てが普通の状態の場合での事だけが意識されます。仮にITの世界で言うDR(Disaster Recovery)の世界で言われるのもサーバーなりPCなり、あるいは業務プロセス自身だったり。実は根本的な面が一つ抜けます。
意識しないと忘れがちなのが、通信手段の確保です。
その場に居合わせないと判らない通信手段の確保の重要性
通信事業者に身を置く私ですら恐ろしいと思うのが、サービスネットワークのIP化の流れ。途中の重要な拠点が災害で破壊されてしまうのみならず、途中の拠点での停電が致命的な障害になります。昨年夏の都心大停電が正にそうで、電気が止まれば全てが止まります。自家発電で自分だけ動いていても、途中の通信が途絶してしまえば何も動きません。
意識しないと忘れがちなのが、通信手段の確保です。
ケータイがあるだろ?
いや、ケータイの基地局も停電に弱いんですよ。たとえば電話局の局舎に設置されていて、かつ自家発電の恩恵に預かれる設備ならいざ知らず、殆どの基地局は地域が停電すると沈黙します。基地局の設置形態により微妙な差はありますが、基本的には同じです。
しかも災害時にはホボ自動的に発信規制がかかりますから、仮にネットワークや基地局が生きていても関係省庁関係者以外の通話には使えなくなります。そもそも殆ど機能していないケータイ通信網を使おうと再発信を繰り返しているうちに電池が無くなり、端末自体が沈黙してしまう。阪神大震災のような経験が無いと、想像だにできない。でも、簡単にケータイのネットワークは使えなくなります。
IP電話はもっと簡単に機能を停止
設置場所が停電すれば、IP電話は機能を失います。途中の経路で停電があっても駄目です。インターネット経由なんてもってのほかです。もちろん架線自体が切れてしまえば固定系の通信は一切駄目になりますが、電話局自体が生き残って、かつ架線が繋がっていれば機能するアナログの加入者電話線や専用線とは異なる訳です。
インターネットは脆弱ではない?
もちろん。そもそも何があっても機能を停止しないネットワークを作るという思想からスタートしています。また現在のインターネットと呼ばれるネットワーク全体は非常に冗長性が高いし、どこで切れても、どこが機能を失っても通信全体が停止することはあまり考えられません。
でもラスト・ワン・マイル。最後の最後に繋ぐ手段がなくなってしまう。日常は非常に早くて便利。色々な機器が繋がるし、色んな使い方ができる。コストを考えるとそこにあらゆる通信機器を集約してしまった方が効率も良いし・・・それはそうなのですが・・・
自分で作るボトルネック
冷静に考えると、自分からボトルネックを作っているようなものです。サーバーの二重化?ストレージ・サービスの利用?IP電話による通信コストの効率化?多くの場合、通信手段は必ず確保されている前提でモノゴトを考えているような気がします。
保安上の問題がありますから一般には公開されていませんが、通信のHUBとして機能している設備が、たとえば関東にも数箇所あります。これらのいくつかが同時に障害を起こした場合・・・大変なことになります。
何故こんなに心配するのか?
切っ掛けは先週のイベントの前後に色々聞いた話。医療関係のイベントでした。たとえば大規模災害で医療施設では何が起きるか?野戦病院と化してしまうわけです。特に一番混乱する初期の段階で電気も無い、水道もガスも止まる。当然ケータイ電話なんか繋がるわけが無い。そういった中で続々と負傷者が運び込まれるという状況が生まれるわけです。でも、たとえば関東地方の関係者でそこまで考えているところは非常に少ないのが現実です。繋がらないというのを理解できない。機能しないことを前提に体制を考えるところまで行けない。
根本的に医師の確保の問題とかがあるのは事実ですが、それは業界全体としての別次元の問題なので、とりあえず横に置いとくことにします。
そこでここではITもしくは通信に限定すると、もちろん代替手段や補完手段は色々とあります。ただ、それらがコストや運用の面倒くささ、あるいは「必要性はわかるが不要不急である」といった言い訳で後回しにされてしまいます。そして何か起きた時には取り返しのつかない状況を生む原因になりかねません。
通信まで含めてキチンと話が出来る人ってどれ位いるのだろう?
かなり自立的に動ける自衛隊の通信インフラのようなものを自前で整備するのは非現実的ではないと思います。しかしながら、一つの手段に集約したりするのではなく、複数の手段を常に用意し、それらを日常利用することにより、いつでも機能し続けている手段で果たすべき役割を継続するのが、本来あるべきDRの形じゃないかと思います。でも、ITはIT、通信は通信と多くの場合棲み分けしてしまっている気がします。
有るべき姿ってどうなんだろ
単なる補完手段ではなく、単なるバックアップでもなく、日常利用する冗長性を持った通信インフラ。この考え方は、IT一般のみならず、日常の生活にも当てはまるものだと思うのですが、杞憂かな?
補足: ここまで書きつつ、いくつかの局面についてちょっと深く考えてみたくなってきました。続編書きますとは言いづらいけど、少し長い目で追いかけてみたいと思います。