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住環境が変える、ハードウェアの形 ~メルマガ連載記事の転載 (2012年12月17日配信分)

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この記事は、メルマガ「デジタル・クリエイターズ」に月1回連載中の「データ・デザインの地平」からの転載です。

連載 「データ・デザインの地平」 第25回 住環境が変える、ハードウェアの形

住空間の中の、設備としての計算機

前回の記事で述べたように、ハードウェアの進化は、開発スタイルを変えていきます。そして、そのハードウェアはといえば、住環境の変化に合わせて、その形を変えていきます。
もはや計算機は技術者の道具にあらず、家電であって、生活必需品です。住環境に馴染むデザインと機能がもとめられます。

たとえば、この季節、掘りごたつ型計算機は、いかがですか?
天板サイズのディスプレイを裏返すと、クッキングヒーターに早変わり。表面で開発やゲーム、ひっくり返せば鍋を楽しめるというスグレモノです。

家具付きマンションなら、すでに計算機が組み込まれており、引っ越しもラクです。床全面、壁全面をディスプレイ化できる装置が付属しており、お好きな画像を部屋いっぱいに表示できます。操作パネルは表示画面から分離して立体的に浮き出るようになっています。

お子さまのいるご家庭には、エントランスの壁一面がディスプレイになり、体全体を使ってタッチしながら、ゲーム感覚でアプリ開発を学べるマンションはどうでしょう?プログラマを早期リタイアした管理人が見守り指導してくれます。

遠距離介護でしたら、Webカメラと通信環境の整った部屋がおすすめです。血圧、心拍数は随時モニタリングされ、異常があれば提携医療機関に通知されますから安心です。

入院保証人のいない単身者には、療養室付き物件があります。美少女看護師ロボットが24時間体制で見守り、提携医が往診します。天井と壁には、カメラで捉えた屋外の景色が表示され、四季を感じさせます。また、相部屋では、壁向こうの様子を撮影して表示する機能をオンに設定でき、パテーションを透明化状態にできます。

墓地付きマンションも好評分譲中です。これは、その名の通り、ゆりかごから墓場までをサポートする計算機システムを搭載したマンションです。暮らした日々の情報は自動的にクラウドに蓄積されます。ロッカータイプのお墓の扉を開ければ、データに基づいて計算された故人の姿が立ち現れます。

外出の際には、スーパーや学校を含む広大な敷地内に点在する計算機を自由に利用できます。衛生面から、滅菌済みの折りたたみキーボードとマウスのセットをレンタルしています。
また、外出に際して、ユーザーが持ち運ばなくても、折り畳まれていた脚が伸びて、トコトコと追尾してくれる、自走式犬型計算機を貸し出し可能です。声に反応して飛来する鳥型計算機もあります。
1棟につき1台の共有のレンタカーには、着脱可能なタブレットが搭載されており、電源は屋根上のソーラーパネルから供給されます。

さらに、住居ごと安全な場所に避難させる家もあります。
強固な地盤に打ち込まれた天井クレーンで吊り上げる集合住宅、部屋ごと螺旋階段を登っていくワンルームマンション、特定の一室を切り離して密閉して救命ボート化する一戸建て、床下に収納されている脚がピロティのように立ち上がって住居を持ち上げるシステムもあります。また、要介護者向けには、建物自体が自走式で坂を駆け上がるロボットハウスもあります。一定時間空中に浮かび上がる機能を持つミニ・トランクルームには貴重品を保管できます。

実際にこのような物件があるわけではありません。が、実現不可能だと言い切れるでしょうか?

住空間と融合する計算機はインテリアになる

計算機により制御される住空間では、計算機と建物を分離することは不可能です。それらは融合して、ひとつのデザインを形作ります。計算機にはインテリア性がもとめられるようになり、インテリア計算機は新たな産業になるかもしれません

住居の構造が変わると、計算機の見た目も、それに合うように変わります
防災の面からドームハウスが増えると(※1)、デスクやカーテンレールだけでなくディスプレイも、カーブした壁面に合う形状がもとめられるようになるでしょう。画面は壁面に合わせて湾曲しているけれども、表示内容は平面であるかのように見えるものです。また、矩形ではなく、六角形で、折りたためば三角形になるアートなディスプレイが登場するかもしれません。計算機本体も半月形や球形であってもよいわけです。

また、現代人の大きな問題、睡眠と健康をまもるために、センサー利用の住居ももとめられます。

たとえば、外部からの音や振動を遮断し、血圧、体温、動きをセンシングして蓄積し、入眠に最適な環境を作り出すエアコンやパテーションです。
また、LED に EL を併用し、気温や湿度に応じて微妙に色彩を変え、その変化に対するヒトの状態をフィードバックして、室内のイメージを調整する照明機器です。
脳波センサーによってユーザーの脳の状態を読み取り、頭上を覆う天蓋に取り付けられた多数の EL が絵を描き出し、入眠を誘うベッドも考えられます。
夢を記録して再生する計算機付きベッドは、大きな癒し効果を持つかもしれません。

ラグさえも、計算機と融合することができます。方向音痴の人々や足元のおぼつかない高齢者を導く、EL を織り込んだ光ラグです。足元を照らすのではなく、足元が光りますので。より安全です。もちろん、「洗濯機 OK(ネット使用可)」です。組み込まれた計算機を取り外し、それ以外を洗うことができるという意味ですが(※2)、丸ごと洗える計算機が不可能だとは言えません。洗濯表示に「洗濯機」「手洗い」「ドライ」にプラス、「精密機器」のマークが追加されることも考えられなくはありません。

計算機を通して、触覚や嗅覚への情報が伝えられるようになれば(情報がダイレクトに伝わるのではなく、認知する脳の部分が特定され、活性化させる処理が開発される)、そのような計算機付き住居は、日常生活そのものを変えてしまうことでしょう。

住空間と計算機の融合は、ライフスタイルを変える

住空間と計算機の融合は、ユーザーとモノとの距離を変え、ライフスタイルも変えてしまう可能性があります。

たとえば、女性が靴を買うシーンをイメージしてください。
女性たちが、およそエコとは言い難い、多数の靴やバッグに購買意欲を持つ理由は何でしょうか?

自分の身のまわりに、お気に入りのものを置き、眺めて楽しみたいからでしょうか。モノを傍に置かなければ、モノのリアルな存在感を手に入れられないからではないでしょうか。
それとも、自分が所有していることを知らしめたいからでしょうか。
前者の理由ならば、リアルを感じさせるデータがあればモノを手元に置く必要性は薄れます。
後者の理由ならば、誰もがアクセスできるデータなど、自慢にはならないでしょう。(データへのアクセス権を制限する会員制ならば、ステイタスになるかもしれませんが)

そして、トップス、ボトム、シューズ、ジュエリーといった「個別のモノを購入して身に着けていく」のではなく、「個別のデータを組み合わせて、その情報一式で身体をラッピングする」技術が出現するならば、ファッションとは「データをまとう」こと、ユーザーという現象を拡張する表現になるのではないでしょうか(※3)。

町中に設置された各種センサーが、ユーザーの言葉や思考や動作の情報を取得し、情報を発したヒトを識別し、希望に沿った商品情報を、リアルに、まるでそこにあるかのごとく返すようになったら、どうでしょうか?
試着したユーザー自身の姿がリアルに見える処理が実現したならば。モフモフ感までわかる機能が開発されたなら。

モノを購入せずとも、「モノが眼前にあり手に触れる」感覚を手に入れられるなら、モノを所有せずとも十分という消費者が増えるのではないでしょうか。対価を払って入手する消費者が何割いるでしょうか。

クラウドは、データの「所有」の概念を変えました。
そして、データのリアルへの接近は、定住でもなく、(キャンピングトレーラーのように)家ごと移動するでもなく、(ネカフェのように)ヒトが移動するでもない、新しいライフスタイルを垣間見せます。
世界は、自走式の計算機を同伴し、データのファッションをまとった「ID・私」たちで構成されるようになるのかもしれません。

IT業界のさざ波は、他の産業に波及する

こうした変化は、IT業界にとどまらず、他の産業にも影響を及ぼします。
なぜなら、モノからデータへのシフトは、モノをプレゼンテーションの段階でとどめて、生産を必要最低限に抑える可能性があるからです(※4)。
景気の面からは、現物が動かないということは、望ましくないことでしょう。一方、エコロジーの面からは、モノを作り過ぎないことは、資源の節約になります。

モノを製造するよりも、その企画資料やアイデアを公開して終わりとする事業者が現れれば、ユーザーは製造される前段階のデータを楽しむようになります。
それらのデータがリアルであればあるほど、モノは必要とされなくなるかもしれません。ソフトの流行に乗じて関連グッズの販売で収益を確保する方法や、安価なモノを大量販売する方法が通用しなくなるかもしれません。

生命をつなぐために必要な(食糧や水などの)物資を生産したり、(病院や道路といった)社会生活基盤の維持管理を担う事業者以外については、勝ち負けの基準が変わってしまうでしょう。物質を大量に販売することよりも、より斬新な企画やアイデアを大量に迅速に公開することのほうが、社会的評価を得られないとも限りません。

流通するモノの量や性質が変われば、ロジスティクスが変わり、販売・管理・廃棄工程を担う企業の活動も変わります。アイデア公開は、特許の意味をも変える可能性があります。商品候補のネーミングやコピーの著作権問題も生じそうです。計算機の変化は、IT業界にとどまらず、我々の社会全体を変えてしまうインパクトを持っています。

それでもなお、我々はモノにこだわるでしょうか?
それとも、モノよりデータを重視する社会に適応するでしょうか?
それとも、データより概念の世界に触手を伸ばすようになるでしょうか?

※1 家屋の材質が変われば、害虫にも、滅びたり、耐性を獲得して進化するものが現れるでしょう。ひとつの種が、生態系を変えるトリガになることもあるでしょう。それはまた、産業を変えます。

※2 計算機の分解、掃除、組み立て専門のハウスクリーニングには、需要が多いかもしれません。

※3 本連載第第14回「技術進化が促す、人類総デザイナー化」 では、無地のカーテンをつるしておけば、ユーザーは随時、それを好みのデザインに変更できるようになると述べました。

※4 筆者は、生活支援を必要とする者の役割のひとつに、生産活動の速度調整があると考えます。ケアラーが生活支援に時間を使うと、生産活動の時間は減ります。それは、ヒトの行動を制御するひとつの社会システムです。我々の社会の構成員が、自らの欲するままに行動できる者ばかりになったなら、モノは今以上の速度で増え続け、環境破壊の速度は増すでしょう。

「データ・デザインの地平」バック・ナンバー
第1回 UXデザインは、どこへ向かうのか? (2010/12/20) ~ 第24回 ハードウェアの進化で変わる開発スタイル (2012/11/19)

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