夏目房之介の「で?」

藤田和日郎『黒博物館』シリーズ

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しばらく前、突然藤田和日郎『黒博物館 ゴースト アンド レディ』上巻(講談社 2015年刊)が送られてきた。なんで今頃送られてきたのかはわからないが、読んでみた。うわあああああ、すっげぇー面白いじゃねぇかよお。しかも上巻! 速攻、アマゾンで下巻を探したら「黒博物館」シリーズの1巻目『スプリンガルド』(2007年)も出てるじゃん! やべ! もちろんすぐに買いこんで、一気読み。面白いっす。
『ゴースト アンド レディ』は、ある劇場に巣くう元代理決闘士の男の幽霊が、ロンドン警視庁の犯罪資料を収めた黒博物館(実在)の学芸員の前にあらわれて、自分の過去を語る。幽霊が昔とりついた女性がじつは無茶苦茶業の深い聖女・ナイチンゲールで......という、二重箱のお話構成。いささかややこしい構成でもあり、芝居からの参照、歴史的背景などの注釈や解説がちょっと多いのではあるが、それ自体がゴシック・ロマン風の伝奇物語なので、その手が好きな人にはなかなか楽しい。
『スプリンガルド』は、『ゴースト アンド レディ』の前哨戦となった物語みたいだが、これもこれで楽しい。切り裂きジャックの前に「ジャンピング・ジャック」事件が実在したことを解説で知ったが、ヴィクトリア朝初期までのロンドンの警察機構が、江戸のそれよりもお粗末だったらしいこともついでにわかる。こちらは、破天荒な刑事とバネ足ジャックの活躍する爽快なピカレスク・ロマン。藤田的な奇想癖みたいなところが全開で、何よりも怪異な怪物たちのデザインと描写、表情の凄さが作品のマンガ力を物語っている。 それにしても、もはや書店ですら、こういう作品を探し当てられなくなった点数の多さは、危機的ではなかろうかね。

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