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夏目房之介の「で?」

鹿島茂『フランス絵本の世界』青幻舎(2017年)

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http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/180321-0612_frenchpicturebooks.html

ひさびさに庭園美術館(旧朝香邸)に行き、鹿島茂コレクションのフランス絵本展をみてきた。かなりのボリュームで、最後のほうは疲れてしまったが、大変刺激的で勉強になった。カタログがわりに鹿島茂『フランス絵本の世界』青幻舎(2017年)を購入。
 18世紀から版画が欧州でも日本でも広範に大衆化したが、19世紀欧州では、それが絵本という形態になる。他方、「子供」と「動物」が「発見」される時代でもあり、イタズラ小僧や擬人化された動物寓話などが普及する。その経緯が見て取れる展示である。また、印刷技術の革新とメディアの変化が、絵と文字の関係を変えても行くのも何となくわかる。
 絵本の実物をみると、モンヴェルという画家の絵などは本当に素晴らしく、『グザヴィエール』(1890年)の色彩などは、見事というほかない。写真製版凹版という、現在では再現不可能な複製技法によるものだという(p.89 フェルディナン・ファーブル著 モーリス・ブテ・ド・モンヴェル絵『グザヴィエール』)。また彼の『ジャンヌ・ダルク』(1896年)の表現も大変素晴らしい(p.94-95 モーリス・ブテ・ド・モンヴェル著・絵『ジャンヌ・ダルク』)。
 そのほかBD(バンド・デシネ)の流れも絵本として紹介されていて、それが女性向け雑誌・新聞なのが興味深い。1905年創刊「スメーヌ・ド・ジュゼット」という少女向け週刊新聞連載の、小間使いが主人公の『ベカシーヌ』は大ヒットし、終刊の1960年まで続いたそうだ。女性向けマンガがかつてフランスでも人気があったことの証左でもある。
 さらに20世紀になると、動物擬人化表現で注目されるラビエ(19世紀の『ラ・フォンテーヌ』などの、リアル動物描写の擬人化ではなく、ミッキーにつらなる記号的な造形としての動物)の1922年のアニメーションも会場で観られた。他にも近代の視覚文化の変化についていろいろ思いめぐらせながら楽しめる展示であった。

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