夏目房之介の「で?」

アラビア語版『吾輩は猫である』

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 以前、漱石関係のイベントでご挨拶をいただいたアラビア語版の漱石作品を翻訳されているマーヒル・エルシリピーニーさんから、メールでご連絡をいただきました。
「お陰様で、国際交流基金の翻訳出版プログラムで、先月、『吾輩は猫である(上)』のアラビア語翻訳版を出版させていただきました。
 これから、日本やアラブメディアの取材、サイン会、講演会で忙しくなります。」
 おおー。エルシリピーニーさんは、広島大学特任教授の任期を終え、カイロ大学日本語学科に戻られたそうです。お知らせありがとうございます。表紙デザインはなかなか興味深く、シンプルでいいですね。

 『吾輩は猫である』の英語版は『I am a Cat』ですが、当然そこには「吾輩」「である」の「偉そう」でユーモラスなニュアンスが出ない。日本語には、謙譲語など、クラスやジェンダーで使う語を変えるシステムがあるが、これがないか、薄い言語で翻訳する場合、当然こうしたニュアンスを語レベルで直接反映するのは不可能になる。アラビア語がどうなのかまるきり知らないが、翻訳というのはあくまで文脈的な理解で意味を伝えるものであり、だから物語があるほうが伝えやすい。『猫』はというと、お話は一応あるから訳しやすいのだろうか。う~ん、あの知的共同体の雰囲気の中での悪ふざけ感みたいなのは、案外どんな世界にもありそうだけどねえ。まあ、難しいのは難しいでしょうね。しかし、異文化に届いてくれるのは、ありがたいことです。


Comment(1)

コメント

くみかおる

「筆者」(=わたし)を英語で「this writer」とすることはあります。それから日本語の敬語や尊大さを、敬語システムのない言語に移し替える裏技があります。「夏目先生、お歳はおいくつでしたか」は敬語ですが、これを「How old are you, Mr. Natsume?」とすると「歳はいくつだナツメくん」になるし「Do you mind if I ask you how old you are?」なら「失礼ですがお歳はおいくつでしたか」の敬語になります。

もっと上品な聞き方をお望みでしたら「Err, perhaps you're in your 60s, aren't you?」(えーっとたしか60代でしたよね)が使えます。

日本語は敬語があるせいか「いくつ」とか「どこ」とかをストレートに口にする傾向があって、敬語のない言語ではそういうの相手に失礼に聞こえることがよくあるので「How old」とかの疑問詞は頭におかないようにするのがコツです。相手にはイエスかノーかで返事すれば済むような聞き方をしてあげるのが英語のpoliteness(敬語に相当)です。夏目さん今でも英会話教室に通っておいでですか?こういうことを心得ておくと会話がぐんとネイティヴっぽくなるのでお勧めです。

えと、それから「~はーである」文は明治の発明です。帝国憲法が最初といわれています。西洋の法体系を日本に導入するにあたって、それにふさわしい文体がペリーとの条約批准のときから模索されて、その成果が「~は」です。おじいさまはこの人工的文体を逆手にとって「吾輩は猫である」をひねり出したのだと思います。

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