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夏目房之介の「で?」

細馬宏通『二つの「この世界の片隅に」 マンガ、アニメーションの声と動作』(青土社)

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細馬宏通『二つの「この世界の片隅に」 マンガ、アニメーションの声と動作』(青土社)
いやあ、脱帽っす。これほど、精緻にして直感を研ぎ澄ませた表現分析は、めったに見られない。呉に縁のある細馬さんの作品への「愛」の深さが感じられます。微妙な声や音楽、動作や小物の意味、それらを注視する研究者の業のようなものが、ぴたりとマンガとアニメを巡る往還に注がれ、これまた見事な文章で書きつくす。
とりわけ、「まつげ」と題されたエッセイである。まつげの向きと眼玉の関係を分析し、ついに「未来志向」と「過去志向」を見出すアクロバティックな分析は、僕などはゾクゾクしてしまう。たしかに、人によってはその「危なっかしさ」に二の足を踏むだろうが、そこがまた面白さになっている。論文というよりエッセイというべき文章だろうが、むちゃくちゃ面白いので、いいのではないだろうか。いや、別にいいか悪いかはどうでもいいか。
マンガを雑誌と単行本で「読む」こと、アニメーションを映画館と自宅で「観る」ことの、場と人のかかわりと受容についても、刺激的な論になっている。


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