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夏目房之介の「で?」

LF・ボレ、フィリップ・ニクルー 訳・原正人『MATSUMOTO』

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LF・ボレ、フィリップ・ニクルー 訳・原正人『MATSUMOTO』(誠文堂新光社)
オウム真理教事件を、松本サリン事件を中心にしてドキュメンタリー的に描いたフィクション。これまでBDというと、アメコミの映画人気追従路線に比して、絵画的なアートの魅力で紹介されてきた気がするが、ここにきて「日本読者にインパクトのある内容」という観点に移り始めたのかな、と思わせる作品。基本的にほぼサリン事件の事実を追っているが、非常に冷静で客観的な描写はやはりBD。地下鉄サリン事件の阿鼻叫喚の場面も、オノマトペも動線、集中線も(むろん)一切ない。しかし、これまで読んだBDと比べて、やけに「読みやすい」。コマごとの絵画的な情報量が少ないせいなのか、ずいぶんスラスラ、まるで日本マンガのように読めてしまうのだ。もちろん「面白い」からだともえいるのだが、少しずつマンガとBDの距離が近づいてきているのだとすれば興味深い。ニコラ・ド・クレシー『プロレス狂想曲』は、「スポーツ・マンガ」というジャンルを使い、ときおり動線なども使って、日本マンガを模倣するフリをして、そのじつBDという戦略で日本で連載した作品だが、当然のように「読み」はBDのそれだった。そりゃまあ、クレシーだからそうだろうとは思うけど、『MATSUMOTO』は「読み」の軽さが日本マンガっぽい気がした。

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