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夏目房之介の「で?」

バスティアン・ヴィヴェス他『ラストマン』1~4巻(飛鳥新社)

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http://www.asukashinsha.co.jp/book/b241596.html
『塩素の味』などで日本にもファンのできたバスティアン・ヴィヴェスら、いずれも30代のBD作家グループで制作した、日本マンガに大きな影響を受けたと自称する作品。日本マンガとBDを読んでいる人が読めばわかるが、たしかに日本マンガの影響が強く、しかしまたBDでもある。『ラディアン』のような完璧な日本マンガの模倣ではなく、どちらともいいがたい様式で描かれている。
絵はヴィヴェスの作家性を感じるし、日本マンガ的な動線や記号は使っていない。が、顔のアップが連続したり、格闘場面を詳細に分節したり、日本マンガ的にもみえる場面がある。何よりもこれほどBDっぽい絵の連続なのに、「読み」の軽さは日本マンガ的である。おそらく、これまでのBDと比べても、日本読者には読みやすい作品だと思う。何よりも、「読み」の快楽があるし、お話の展開も唐突ながら面白い。
日本マンガの影響という部分を、彼らはきわめて意識的に制作していて、一方でキャラクターの配置とか焦点の当て方が、日本の少年少女マンガ的なものではなく、もっと分散しているので、そこの「読み」の感覚はBD的だったりする。もちろん、そういう日本マンガも存在するので、もはやこういう領域で「日本マンガか否か」を議論することは困難だし、多分無意味になっていくと思う。
第3巻末のインタビューに答えて多分ヴィヴェスがいっているのはこういうことだ。

「僕らにしてみれば、「マンガ」とは、ある「物語の語り方」」なのだが、そうしたものは「単なるレッテルに過ぎ」ない。

世界のマンガ、BD,コミックは、今そういう領域に届き始めているのだと思う。「JUDO」と同様に、日本の柔道とは異なる世界基準の領域ができていくことになるだろうと思う。

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