夏目房之介の「で?」

千葉市美術館「ウォルター・クレインの本の仕事」展

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http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2017/0405/0405.html

千葉市美術館「ウォルター・クレインの本の仕事」展を見てきました。ほとんど国内の印刷物資料なんですが、かなり多くの展示があって、大変面白かったです。何よりも、テプフェール以後の絵本ブームの一端を具体的に見られて勉強になります。クレインにはジャポニスムやラファエロ新派の影響も見られて、少女マンガ的な意匠とも近いものを感じます。実際、お客さんの多くが女性でしたね。「絵本」という「本」と「美術」の領域ということで、ほんとうはCARTOONとの関係もあるんだろうと思いますが、そのあたりは触れられていません。ただクレインの1901年のドローイングの例として「THE SCHOLARS CARTOONS」と書かれた小さな原画(1901)がありましたが。
 面白かったのはアルファベット絵本などに多く使われたコマ構成で、1870年代には普及しているようです。とくにマザーグース物の「ハバードおばさん」(1874)など、ナンセンス・マンガといっていいものです(とはいえ、マンガだマンガだと一方的に称揚する気はありません。それはそれで一種のミスリードになりうるので)。
 また、彫版師で出版プロデューサーだったエドマンド・エヴァンスは、クレインの後釜としてコールデコットを起用します。コールデコットはマイブリッジの走る馬の分解写真(1872~)に影響を受け、「クレインの絵からはいきいきとした動きが感じられない」(マーカス「失踪した画家ランドルフ・コールデコット」BL出版 2016年 p.40)との不満から、走る馬の(かなり「マンガ的」(上に同じ)に感じられる)動的な場面を描いています(表紙図版は「ジョン・ギルビンのこっけいな出来事」1878年より)。さらに展示にもあったエヴァンス、ロバート・ブラウニング画「ハメルンの笛吹き」(1888年)は、左から右への時間の流れを意識した子供たちの群衆描写を演出しています。日本では12世紀の絵巻ですでに精緻な描写が「伴大納言絵巻」に見られますが、本というメディアのしくみと、運動の方向、物語の時間の空間化という観点などから、19世紀後半期欧州の視覚文化の変容が伺えて興味深いです。

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