夏目房之介の「で?」

リチャード・マグワイア『HERE』国書刊行会

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リチャード・マグワイア『HERE』国書刊行会 2016年10月刊
 2016年アングレーム国際BDフェス最優秀作品賞。
 たしかに「面白い」作品です。1989年(昭和天皇と手塚の没年!)に「RAW」誌に発表された白黒6ページの最初の「HERE」を、2014年に分厚い単行本にしたものだとか。アイデアは、付録でついている最初の短編(2枚目の写真の白黒画像)をみるとわかりやすい。ページとコマにそれぞれ年号がついてて、作者の生まれた土地の、各時代の風景が並列的に描かれる。1999年のコマに2028年のコマが入り込み、6コマ構成の1ページに恐竜や生まれたばかりの1965年の赤ん坊や2030年の何もない草原などが同居する。時空が錯綜して、同じ空間をめぐる「物語」ではない「物語」のようなイメージが浮かんでくる。何万年もの過去から未来まで各時代のコマやページが並び、そこここに共通性や関連性、響きあう要素が描かれ、奇妙な「読み」を生みだす。ふつうのコミックなら回想も含めて線的な流れになる時間分節が空間的な平行関係で重層するという表現。そのアイデアを長編化した本作では、完成度があがり、ことに色彩表現が見事なので、重厚感がある。コマやページと時間について考えるには面白い実験作だと思う。ただ、ふつうのマンガのように面白いかといえば、そうではないので、前衛実験が好きな向きには「面白い」というべきだろう。現代芸術的な領域というべきか。でも、年間ベストに選んでもいいインパクトのある作品ではあったなあ。読むのが遅かった。

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