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夏目房之介の「で?」

江口寿史・宮本大人『KING OF POP SideB』(青土社)

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宮本大人キュレーションによる「江口寿史展」の展示キャプションを集めてひとつの批評的作品にした単行本。江口展図録画集SideAに対しSideBとなっている。が、宮本あとがきによると「ほんとはこっちがSideAだからね!」だそうである。「80年代以降の江口の戦いもきちんと知ってほしい」(宮本)一冊ということらしい。一方の江口のまえがきは: 「宮本大人さんの、展示物と作品のチョイス。それにつけられる明解[ママ]なキャプションがいちいちぼくのツボを突いた。痒くてたまらないところ、今まで誰も掻いてくれなかったところを「あ~そこ! そこなんだよ!」と恍惚となるくらい的確に、しかもいい按配の力加減で掻いてくれた。  もちろん評論というものは論者の芸である。その全てが本質を突いているわけではない。なかにはこじつけめいた所、「そこはちょっと褒め過ぎでは」という所もないではない。...  だが、猿(作者)の眼を開かせ鱗を剥ぎ取ってくれ、より高い木に登らせてくれる評論は良い評論だ。」  これほどの賛辞を作者からもらえる評論家、キュレーターがどれほどいるだろうか、と思わざるを得ない。うらやましいかぎりの言辞である。もちろん、それは江口というマンガ家の特質を表明したものでもあるけれど、よっぽど嬉しかったんだろうというのが伝わってくる。評論は別に作者をあおるものでも、その気にさせるのが本旨なわけでもない。けれど、それはそれで優れた作業だし、僕もできれば作家がやる気にになってくれれば、という気持ちはある。そこんとこ、さすがの宮本仕事であった。 ただ、こんな力をもっているんだから、研究者としての単著をできるだけ早く出してほしいというのは、僕だけでなく彼を知るすべての研究者の共通の(そしてここ十数年来の)切望である。いい加減「影の総理」から表に出てほしいのである。もう出てる、と本人はいうかもしれないし、昔から本人にはいってきてるのでしつこいといわれるだろうが、頼むよホントに。

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