夏目房之介の「で?」

タイマンガ研究者Nicolas Verstappen氏の発表

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2016.10.3メモ

9月29日、「JOE」シリーズというマンガで有名なタイの人気マンガ家かつ大学の先生もしているSS氏の主催で、バンコクのRangsit大学で座談会的トークショーが行われて参加した。SS氏のほか、彼に影響されてマンガ家になった数人の作家と、チュラロンコン大で教えているタイマンガ研究者Nicolas Verstappen氏(ベルギーの仏語圏出身で以前はBD研究)も参加して、100人以上の学生を集めたにぎやかな会になった。

ニコラス氏の発表は前後2回にわたる、パワポを使った非常に興味深いものだった。控室で彼が見せてくれた、大学生のグループが作ったという「LET3」というマンガ誌には伝統的なタイマンガ、アメコミ、日本マンガなどの様式を次々に変えて描かれた作品があって、これも面白い。

page 007.jpg

 ↓「LET3」よりeunjoo「The page cannot be Displayed」

の日本マンガに切り替わる場面。

 一回目の発表では、ニコラス氏は89年のタイコミックスの表紙を見せ、そこに『タンタン』と『ラピュタ』からの模倣があることを指摘。たしかに背景は『タンタン』の表紙そっくりで、手前の少女は『ラピュタ』から引いていることが、元の絵と比較されてはっきりわかる。タイマンガが欧米、日本などから表現を選択している例だという。ではエルジェと宮崎駿のあいだの「失われた環」は何か。メビウスだ、とニコラス氏はいう(なるほどねー!)。『タンタン』の白い犬は、『ナウシカ』のメーベ(白い鳥)になり、冒険ものはSFになったが、見せている世界の政治的な意味、すべての局面が世界の構造をなしている点は共通している。またメビウスはサイバーパンクに影響を与え、大友の『AKIRA』へとつらなる。ここに視覚的表現の連続性があり、フランスBDの「 Calm & cool」な線の均質性と、日本劇画のエナジー・激しさが混合し、大友はタイマンガにも影響を与えた。松本大洋もそうだ。アメコミはパワフルであり、BDは知的で、日本マンガは軽やかだ。

 『タンタン』では、すべての要素がひとしく重要で、人物も言葉も背景もすべてに意味があり説得力をなす。主人公は風景の中に溶け込んでおり、キャラクターはシンプルかつピュアで、それを通して読者は複雑な世界に入り込んでいける。日本マンガとは異なる手法である云々。

 聞きとれた英語と通訳の聞きかじりで要約したメモだが、我々の「日本マンガスタイル」についての調査にとっても、非常に興味深いことは間違いない。ニコラス氏にとって、マンガ(BD)とは、さまざまな異なる要素をミックスさせてゆくところに面白さがあるメディアなのだ、ということは、2回目の発表でも明らかになる。この点は、僕も共感するところだ。

ニコラス発表ポパイとミッキー.JPG

 ニコラス氏は、20世紀前半のミッキーやポパイのタイマンガへの影響を事例をあげて示し、足の描き方などこまかい類似点を指摘した。

ニコラス発表ミッキーとの場面比較.JPG

 他にも興味深い事例が多く示され、あんまり面白いので僕は「あなたの講義を取りたいよ」と口走ってしまった。機会があれば日本で発表してもらい、日本の研究者たちと直接討議質疑をしてほしいものである。

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