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夏目房之介の「で?」

映画『月に囚われた男(MOON)』DVD

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http://www.youtube.com/watch?v=pU1tTBKpkIE
予告編

http://eiga.com/movie/55145/

監督のダンカン・ジョーンズは、デヴィッド・ボウイの息子らしいです。
大変、面白く観ました。
月面のエネルギー資源で地球のエネルギーの7割をまかなっている時代。その月面採掘を行っている韓国系企業に雇われた主人公サムは、たった一人で、ロボットとともに採掘作業管理をしている。契約は3年。映画では、もう少しで妻と娘のいる地球に帰れるはずの時点。ほとんど登場人物一人だけに近い、密室映画。そこで、ある謎が・・・・。
以下、ネタばれになります。

そもそも、たった一人で月面採掘基地の管理、というのも無理があるわけで、まぁ謎がわかっても、その疑問は根本的には解決されないものの、じつは省力化のために、主人公はある人物のクローンで、彼の記憶を移植されているという設定。ある事件から、基地に二人のサムが同居してしまう。新しいサムと古いサム。要するに再生産される消耗品だったというオチ。
面白かったのは、映画を観ていると、二人のサムが交互に「主人公」として画面にあらわれ、そのたびに主観視点が「別の人物」なのに「同じ人間の視点」として受け取られるために、奇妙な感じになったこと。考えてみれば、普通の映画でも、複数の人物の主観視点に移動することはよくあるのだが、それがクローンだと、なんとも奇妙な感じになる。
二人のサムには、移植されたオリジナルの過去が共有されているが、同時に基地での記憶には食い違いがある。すると、アイデンティティはその記憶に支配されることになる。そんなことを考えながら観ると、なかなか興味深い。アイデンティティって、結局記憶なのだね。
制作費用も抑えた作品のようだけど、限られた密室的な条件での低予算映画はアイデアが勝負なので、意外と凝った面白い映画になることがある。低予算ではないけど、最近でも『ゼロ・グラビティ』が密室的だったし、『キューブ』も典型的な密室型ミステリーだった(もっとも、最後まで謎解きのない最初の作品だけが面白くて、無理やり謎解きした2作目は、ちょっとがっかりだったけど)。こういう小ぶりだけど、刺激される映画はいいな。

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