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夏目房之介の「で?」

漫画家モノ二冊-『アル中病棟』と『チェイサー』

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 ここんとこ漫画家がいろいろ。

 吾妻ひでお『アル中病棟 失踪日記2』(イーストプレス)
 塀の中物とか色々ありますが、ウツで失踪中の体験マンガに続いて、アル中で入院した経験を吾妻ひでおがマンガ化した。ご存知の方には、大体想像がつくかもしれないが、これもまた興味深い人間模様や病院の実態が読めるだけでなく、何というか、吾妻ひでおの独特な距離感、虚無感の漂う飄々さが味。こういう経験モノにありがちな「感動」は、ない。ないだけに、ほんとに吾妻ひでおの体験なんだな、という感じがする。
 それと、最後のとりみきさんとの対談が面白い。絵の引き方、俯瞰と仰角への変化に吾妻の意識の切り替えを読むとりさんの読みは、すでに批評家のもの。二人のやりとりには、実際にマンガを描いている人間の共通した感覚が流れている。

 コージィ城倉『チェイサー』1巻(小学館)
 スペリオールの連載。昭和30年代、手塚治虫絶頂期に月刊マンガ誌で戦記モノで活躍していた中堅漫画家が主人公。彼は、「少年画報」(少年画報社)「冒険王」(秋田書店)「野球少年」(芳文社)の編集者など(ここに出てくる月刊誌、出版社は実名で、実名の編集者も(多分)登場する)に囲まれ、手塚など興味がないフリをしながら、じつは手塚が気になって、あれこれと後追いでマネしているという屈折した作家。特攻帰りを吹いているが、実際は整備だったらしい(わちさんぺいが、そうだったはずだが、本作では主人公は手塚と同年齢の設定で、わちはたしか年上)。毎回のように「この人物は実在した!」という言葉が入り、「注」とか書いてあるのに、肝心の「注」がどこにもない。おそらく「このナレーションはフィクションです」とか書いてるんじゃないかと思うが、モデルはあっても、実在ではないだろうと思う。
 何しろ、マネする内容が、仕事中の脱出法とか、机の下にネーム置いてるとか、寝転がっての執筆、原稿用紙の薄さまで、やたらとネタが細かい。今後の展開が気になる。ちなみに解説を中野晴行氏が書いているという、コリよう。

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