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夏目房之介の「で?」

ロドルフ・テプフェール『復刻版 観相学試論』

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佐々木果(ササキバラゴウ)さんが、こんどはロドルフ・テプフェール(森田直子訳)『復刻版 観相学試論』(オフィスヘリア 920円+税)を出版されました。東北大の森田直子さんは、すでにナラティブ・メディア研究会の論集で『観相学試論』の訳を出されてますが、今回は手書き文字のオリジナル復刻版が一緒についている。なので「復刻版」。オリジナルは、文中に描かれる顔の絵と同じ線で流麗に文字が書かれていて、活字と絵の組み合わせでは感じられない「あ、同じ線なんだ」という感触があって、面白い。もちろんワタシは読めませんが。

テプフェールは、近年「近代マンガの祖」として注目されているスイスの教育者・作家で、非常に面白いコマ・マンガを19世紀前半に描き、この流れがコミック・ストリップにも影響しているとされています。『観相学試論』は、彼のいわばマンガ理論書で、「版画文学」と自分で呼んでいる新たなメディアの可能性を、当時欧州で流行していた「観相学」(顔の相で性格などを推定する学問、一応占いではない)を利用して、記号的な特徴の線描で性格と表情が造形できることに着目した文章です。簡略な絵の可能性を探り、コマを自在に使い、キャラクターの造形に注目し、マンガに近代を本格的にもたらしたのではないか、という点が僕などには興味深い人物です。

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