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夏目房之介の「で?」

バリから帰ってきました(2)

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133_3  テルタガンガで泊まったプリサワの父子によるベンジョール作り。大学でコンピューターを学んでいる息子ロバート君(お母さんは英国出身)はアニメが好きで、色々と話をしました。バリ人と英語で話していると、どんどんブロークンになっていくんですが、さすがに彼の英語はネイティブでした。ティルタガンガそのものには、中国人やインドネシア人などもツアーバスでくるけれど、泊まっているのは欧米人だけで、日本人はおそらく僕くらい。なので、会話はすべて英語。

133_4  これがプリサワの泊まった部屋の前景。夜は蛍が飛び、いくらでもぼーっと眺めていられる。

133_5  ティルタガンガに着くちょっと前に寄った魚料理のレストランでの昼食と、ウブドで泊まった宿の主人マニック。ここの料理はうまかった。手で食べるので、手を洗う水がついてきます。

133_20  ティルタガンガの蓮

 ところが、今回、王宮から自転車で急坂をえっさほいさと体力作りのように汗だくになって15分も登るところにある宿(ここ数年はここが定宿)のすぐ隣に、川をまたいで巨大なコンクリの橋が建造中で、2年後には107室の一大ホテルができるらしい。昼は工事の音がして、昼寝は耳栓つき。夜もなぜか煌煌と照明が輝き、蛍どころではない。しかたなく、近所のビンタンカフェという食堂に毎晩通い、そこから水田の蛍を眺めていました。

133_12 ウブドの宿からみた雲。美しい。

 とはいえ、そこはやはりバリであって、数日すると体がバリになじみ、気づくとひたすらぼんやりと風景を眺めていられるようになってきました。意識のありようが東京とは変わってしまうんですね。読書、八卦掌の練習、王羲之の臨書、昼寝、そして散歩。ただそれだけで、あっという間に日が過ぎてしまう。ぼーっと何もしない状態が徐々に長くなってゆく。最終的には1時間くらい何もしないで、ぼーっとしてられる。これでようやく、僕はリセットされるらしい。

133_18  隣工事中の宿より

 このままだと、いつものようにひたすらウブドの宿でだらだらして、どこにも行かずに終わってしまう。初めから今回はちょっとほかの場所にも移るつもりできたので、6日目にティルタガンガという、昔の王様の石造りの沐浴場がプールとして公開されているところに、2時間半かけて移動。きてみると、十数年前にきたときと、それほど変わらず、蛍も見放題で、まことにのんびりしている。水田を目の前にしたプリサワというコテージに泊まり、ウブドよりさらにぼんやり過ごせることにあいなりました。1室だけだが、熱いお湯のでるバスタブがあるのも、日本人にはありがたい。昔、初めてきたときは、急な丘を百段近い石段で登るスクマジャヤという宿に泊まり、その絶景に頭が飛んだものでしたが、いや水田と森と山々と遠くに見える海という開けた絶景は、昔のままでした。ここで昼は緑と鳥の声、夜は蛙の声を聞き、蛍を眺め、気づくとぼんやりといつまででも座っていたりする。このために来たんだなあ、と思います。

 

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