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夏目房之介の「で?」

舞楽「還城楽(げんじょうらく)」

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偶然、いつも録画している時間帯のNHK-Eテレに「舞楽」というのが録画されてあって、一体何だろうと思って観てみた。舞楽は、雅楽を奏して舞うもので、古代から日本列島に伝わり、中国の当時の伝統を継いでいるものだと思う。演題は「還城楽(げんじょうらく)」。

「還城楽」は、唐の玄宗が反乱を鎮圧して都に帰ったときに作ったと伝えられ、また西域の人が好物の蛇を見つけて飛び上がって喜ぶところを舞うともいわれるらしい。宮内庁楽部というから、日本でも最高峰の人たちによるものだろう。
仮面ライダーの怪人みたいな面をつけた真っ赤な人物が出てきて舞うのだが、これがなんとも中国武術を連想させる動きをする。歩の使い方、馬歩のようなしゃがみ方(背筋はまっすぐに深く腰をおろす)、同側の動き、太極拳のような足先のあげ方など、興味深いものだった。
じつは、舞楽は何度か観ている。しかし、過去に観たときは、どちらかといえば退屈で、何がいいんだかわからなかった。体のことがわかってきてから、こうした動きがいかなる修練で成り立つかもわかり始め、それで興味を持ってみられたのだと思う。ただ、あの巨大な火炎太鼓の音は、実際に聴くととんでもない破壊力で、魔を払うがごとき音圧である。これだけはTVでは感じられない。
おそらく中国本土では失われた類の技芸だろうと思うが、そう思うと、この列島には不思議なものが残っている。

追伸
同じ時間帯の録画に「らららクラシック」というのがあって、昨年のクラシックをダイジェストで見せていた。中にバレエの「海賊」があって、ロシアの男女ダンサーが踊っていたが、いやあ、さすがに凄いです。女性は回転、男性は回転と跳躍。とくにえんえんとくるくる回る女性のフェッテは、もう感嘆という言葉以外にない。これが現在の形で成立するのは19世紀後半、クラシック・バレエ成立後だというが、それにしても舞楽やある種の中国武術、あるいは古武道などの体との、何というイメージの違いだろうか。

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