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夏目房之介の「で?」

『「ガロ」「COM」漫画名作選②1968-1971』講談社

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「ガロ」「COM」の名作選だが、編集構成がとてもいい。①には、白土三平、手塚治虫、水木しげる、石森章太郎、つげ義春、永島慎二、辰巳ヨシヒロ、松本霊士、滝田ゆうと、大物どころを集めてある。②は、当時新人だったり、マンガ青年に影響を与えた作家たち、池上遼一、真崎守、楠勝平、宮谷一彦、勝又進、青柳裕介、橋高雄(矢口高雄)、つりたくにこ、岡田史子、林静一、佐々木マキ、矢代まさこ。
ただし、たんにマンガ作品だけを再録した本ではない。作品選択もかなり渋くていいのだが、ほかに「ガロ」誌上での白土の作品応募の呼びかけ、「COM」の新人募集記事、各作家の当時のインタビューや対談などから拾った発言集、当時の単行本の自社広告、とくに②の最後には真崎守が「COM」読者に同人誌作りやグループ仲間作りを呼びかけたアジテーションの文章、新人賞に応募した岡田史子、宮谷一彦、竹宮恵子、山岸涼子、あだち充、諸星大二郎、大友克洋などの選評ページが再録されている。また真崎守=峠あかねの「青年マンガ元年」(「COM」67年12月号)という資料的に重要な文章が再録されていたり、目の付け所がなかなか鋭い。
真崎のアジは、「COM」の全国支部を生み、その休刊後に結果としてコミケを生むことになる。そんな動きが、どんな雰囲気の中であったのか、たとえば単行本の自社広告での宮谷や真崎の本の煽り文句などを読むと少し感じることができるだろう。それを考えて編集してあるのだ。また矢代まさこ『ノアをさがして』は50ページ近いにもかかわらず再録してあるが、ひさしぶりに読み返して、さすがだなあと思った。やっぱり、いい作品だ。解説も、じつにいい。真崎の読者オルグの前提に、「漫画少年」や貸本マンガがあったという指摘は、コミケにつながる歴史の縦糸を明らかにする。
大学のゼミや講義でも紹介し推薦しておいたが、資料的に非常に使い勝手のいい本だと思う。もちろん当時の「ガロ」「COM」を持っている人は、それをこまめに読めば全部載っているわけだが、手引き的な本として格好だと思う。歴史を具体的に感じることができるかもしれないし、何よりも、この当時の雰囲気は当事者以外には、なかなか通じないものがある気がするので、いいきっかけを与えてくれるだろう。リアルタイムで読んでいた僕でも、というか、だからこそでもあるが、なかなかうまく説明できない時代でもあるのだ。

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