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夏目房之介の「で?」

花園大夏期集中講義のレジュメ

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今回は「週刊少年ジャンプ」を見ながら、日本のマンガや海外のマンガについて考える、という講義にした。後半、海外マンガの例を具体的に見せ、実物を回しながら話したが、時間切れで駆け足になってしまったのは申し訳ない。
最初の学生への質問は、挙手の数を入れておいた。レポート提出者で見るかぎり、男子19名、女子20名(多分)。その他入れて40名強、男女半々でした。

2012.7.31 花園大学集中講義 「週刊少年ジャンプ」から見る日本マンガ 夏目房之介

1)「週刊少年ジャンプ」は「当たり前」か?

学生、参加者へ質問(42~44名中) 「週刊少年ジャンプ」201286日号 34

①「週刊少年ジャンプ」を知ってる? 全員 

②どんな雑誌だと思う? 「男の子向けの雑誌」「日本で一番人気のあるマンガ雑誌」など  

③読んだことがある 23名 / ない? 19名    

④読む/読まないのはなぜ? 

⑤読んだのはいつ頃? 小学生3名 中学まで3名 高校まで5名 ⑥毎週読んでいる 11名   

⑦どのくらいの頻度で読む?  

⑧買う 7名 / 立ち読み 3名 友人、親兄弟などのを読む3名 

⑨何を読む? 

⑩雑誌は読まないが単行本は読む 13名

「週刊少年ジャンプ」の基礎情報 週刊少年マンガ誌 定価250円 〈ここ数年283万部〉(篠田博之「特集 マンガ市場の変貌」 「創(つくる)」20125/6月号 p36 〈子ども向け週刊誌で好調を持続しているのは『週刊少年ジャンプ』のみで、111~3月の印刷証明付部数で296万部まで到達。それ以外の銘柄は軒並み部数減。『ジャンプ』は、「ONE PIECE」の掲載の有無によって発行部数・実売が左右される傾向が昨年同様見られた。〉(「出版月報」20122月号「特集 コミック市場最前線」 p11 〈ONE PIECE』が休載した号は部数が5~6万部落ちますからね。〉佐々木「ジャンプ」編集長談 篠田博之「特集 マンガはどこへ行く」(「創」20106月号 p30

★ほぼ『ONE PIECE』ブームに頼った「ジャンプ」一人勝ち状態(73年に「ジャンプ」が「マガジン」部数を抜き、以後他誌(マガジン)が「ジャンプ」を抜いたのは96年の「バブル崩壊」的急落時の一回のみ)。

2)マンガ誌とマンガ本市場の略史 マンガが支えた戦後出版隆盛と崩壊

マンガ誌の変遷

【図1】「コミック誌の推定発行部数推移」(前掲「創」125/6月号 p32) 1987~2011

【図2】「コミック誌推定発行部数推移」(「創」91 9月号 p61) 80~90

1970年「週刊少年マガジン」150万部が「事件」だった → 以後、マンガ市場は急成長 ~ 90年代半ば

★「ジャンプ」80年代300万部突破、85年頃400万部突破、90年代600万部台に(最大635万部)

95年『ドラゴンボール』『幽幽白書』連載終了の頃から減少、2年ほどで250万部減

★これは「ジャンプ」だけの売上減ではなく、マンガ市場、出版市場全体の長期不況の始まりだった

★大人向けマンガ誌は、子供向けに遅れて急成長し、遅れて低落している

マンガ単行本の変遷

【図3】「コミックスとコミック誌の推定販売金額推移」(前掲「出版月報」同号 p4

★マンガ誌売上が一直線に落ち、単行本売上は上下しつつ長期低落 → 雑誌離れ・単行本へシフト傾向

【図4】「大手3社の売れ行き良好コミックス」(「創」978月号 p102) ※太線=100万部超ライン

【図5】「大手3社の売れ行き良好コミックス」(前掲「創」125/6月号 p33) ※同上

★単行本は、100万部超のほとんどを「ジャンプ」が占め、全体としては売れなくなってきている

10位のラインで比べると、小学館の落ち込みが大きい

96年 講談社 53万部 小学館 35万部 集英社 56万部

11年  ゝ  37.5万部  ゝ  20.5万部  ゝ  55万部

★現在、月刊誌のほとんどは赤字で、単行本売上で収支をプラスにする他ない

マンガはなぜ売れなくなったのか? 

①読者層の変遷 子供向け誌が95年まで、大人向け誌が98年まで売れたのは、それを支えた年代の消費層が想定される → 「団塊ジュニア」(70年代生まれ)市場との関係は? → 75年生まれが9520歳、9823歳 → 若干のズレはあるだろうが、団塊ジュニアの少し下までの消費層が離れた可能性がある

②その結果、雑誌→単行本の市場構造、3大出版社中心の年代別セグメント市場構造が崩れたのかも?

③なぜ離れたのか? 90年代後半期、アニメ、ゲームなど、多様な商品展開の「メディア・ミックス」が進み、出版という古い構造の市場が全体への影響力を低下させ、落伍していった可能性は?

④不況の長期化の中で、点数を増やし続けた出版界が、書店棚面積を圧迫し、少数のベストセラーと圧倒的多数の小部数低落商品の構造を自ら招いた?

90年代後半期、ネットの加速的浸透で、もはや情報を雑誌から得なくなった消費者が雑誌離れした?

3)再び「ジャンプ」をめくってみる マンガ雑誌とは?

グラビア 『NARUTO』『HUNTER×HUNTER』劇場アニメ情報、対談、新人作品投票広告(WEBでも読める!!)、アニメ無料配信、作品モバイルサイトの情報、電子書籍化情報、夏コミ情報 

アンケート用葉書(ネットについての質問多し

読切『NARUTO31p 『トリコ』19p 本編『NARUTO17p 『暗殺教室』19p 『BLEACH17p 『こち亀』19p

マンガ連載など22本 自社広告 投稿読者欄 目次(作者情報欄)など 全502p

★これほど厚く、安価な(そのかわり紙が悪く、白黒主体の)マンガ週刊誌がある国は、日本以外ではほとんどないはず(東アジアや欧米で、日本との提携誌が90年代以降出ているが、日本ほど成功はしていない)

★発展途上国、中進国では、流通インフラの整備が遅れ、日本のような中央集権的管理ができないことも

★雑誌内外で競争原理が働き、それを生き抜いた優良コンテンツが「メディア・ミックス」に乗り、出版以外のメディアと連携した巨大市場を形成する構造が80年代から本格的に産業化してきた

★そもそも、雑誌~単行本の二重市場がマンガ出版の収益性を確保してきた

★その前提に、高度成長と社会的中間層の厚みが、「小遣いで本を買える子供達」を大量に生み出した経済的背景があること

4)海外ではどうなのか? 日本だけじゃないマンガ、コミックをめぐる状況

a)米国コミックス ヒーロー物と映画『アイアンマン』70年版)『アベンジャーズ』68年版) カートゥーン『ピーナッツ』『ミッキーマウス』 グラフィック・ノベル『マウス』73~86年 戦前~戦後日本へ影響 新聞のコミック・ストリップから薄いコミックスが生まれ、初期は新聞売場で販売 日本型マンガ誌は不在 『少年ジャンプ』04年 月刊 VIZ『少女ビート』05年 年2 VIZ)進出→ 日本型『MANGA『MBQ』③(00 東京ポップ)『ドラマコン』 日本マンガの影響はあるが、世界市場の輸出コンテンツとしては圧倒的に米国優勢 参考文献 デヴィッド・ハジュー『有害コミック撲滅! アメリカを変えた50年代「悪書」狩り』(小野耕世、中山ゆかり訳 岩波書店 12年) 

b)欧州のBD(バンドデシネ) アルバム『ブルーベリー』(ジャン・ジロー=メビウス 85年) 『闇の国々』83年~) 芸術的な前衛や色彩表現絵の完成度 かつては「ピロット」というマンガ誌があった

c)東アジア 日本の影響強く、現地化の歴史 経済状態、流通に依って媒体に変化

 日本型マンガ雑誌を試み、一定の市場を得たが、東アジア金融危機以降急速に衰退

○中国 「連環画」の伝統 韓国同様国策でアニメ、マンガを奨励するも挫折 海賊版『エマ』 オリジナル『子不語』①(09年) 現在ではネットでスキャンレーションと呼ばれる海賊行為横行 ファンと海賊の関係

○香港 現地化の例 米国型冊子露店売り 『龍虎門』84年)『海虎』 (97年) 日本雑誌、単行本提携も 90年代

○韓国 香港、台湾同様日本型成長後、急速に縮小 現在ネットへ 貸本マンガGreat Killer98年)

○タイ 5バーツコミック(日本の赤本、貸本的) 若者文化=日本型マンガ誌「Katch」(現在はない) 同誌出身作家ウィスット・ポンニミットの日本進出

○インドネシア 衰退した貸本劇画 NARUTOまがいのNABURO

★欧米でもかつてマンガ誌は存在し、米国にも50年代まで多様なコミックス市場が存在→衰退

★日本では特異に長期発展したマンガ誌~単行本市場は、小説や海外コミック同様に単行本(あるいはWEB媒体?)市場に撤退し、変貌するのだろうか?

★少女マンガの存在(女性が描き女性中心に消費される市場は現在では日本に特有 欧米では衰退

★海外のコミックなどとの影響の歴史、各国の歴史などとの比較が、日本マンガの特性や現状の研究に必要

★日本マンガだけ見ているとわからないことが多いことを知ってほしい

3)現在の日本マンガ市場 参考

a)出版全体への占有率 「出版月報」2009.2「コミックレポート2008

 発行部数36.7% 114757万冊(単行本47847万冊、雑誌66910万冊)

 販売金額 22.2% 4483億円 薄利多売=大量生産商品 2007年 

b)対象年齢別市場構成 子供向け雑誌 42300万冊 大人向け雑誌 52700万冊(半分が大人向け 世界有数の市場規模と構成=大人向けマンガ誌の規模  2008年 [6]「創」2009.5「変貌するマンガ市場」 高齢化するマンガ読者

c)対象年齢(性別)の曖昧さ 世代別マンガ誌「棲み分け」の存在

 「週刊少年ジャンプ」男女の小学生~中年読者 小学館「ビッグコミック」などの世代別青年誌

 多様化し重層化した読者層と媒体の構造

d)「少女マンガ」の発展60~70年代)による女性による女性向けマンガ市場の拡張

 70年代から男性が少女マンガを読む傾向が加速し、おたく世代を中心に男女が互いに性別を越えて異性向けマンガを読む傾向が強まり、少年誌中心の「ラブコメ」ブームへとつながる。表現手法の交換も。

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