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夏目房之介の「で?」

ライアンさんの講演終了

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ライアン・ホームバーグさんの講演が終了した。

会場には、小野耕世さんをはじめ、小田切博氏、藤本由香里さん、椎名ゆかりさん、岩下戸朋世氏、FMロッカーさんなど、顔なじみの研究者の方々のほか、一般の方もこられ、こうした講演としては盛況でした。40~50人はいたような気がするが、数えるのを忘れました。
ライアン氏の発表は、おもに『新宝島』を中心に、戦前に手塚がパテベビー映写機で見たであろうディズニーなどのアニメだけではなく、むしろ戦後、ディズニーのコミックスの影響が強くあったのでは、ということを両者の図版を多く見せて展開された。『オヤヂの宝島』から『新宝島』にいたる中で、行為の分節が細分化されていて、そこにアメコミでも珍しい、ドナルド・ダック物コミックの同様の表現を比較したところは、のちの手塚マンガの試みを考えると興味深かった。そのコミック「Donald Duck Find Pirate Gold」(1942年)は、もともと戦争に入ってお蔵入りになったアニメで、そのストーリーボードをもとにコミカライズしたものだそうで、テキストがほとんどない、行為を無言のまま分節して追う表現がある。
しかし、会場の小野さんから、42年のコミックスが戦後に入ってきたということは考えにくいが、検証はできるか、という疑問が呈され、課題も見えた。また、よく「映画的」とされる冒頭の車の疾走場面も、ほぼ同じような場面がミッキーのコミックス「Outwitis the Phantom」(1941年)に見つかり、斜め向きの奥行きでの疾走もあった。これも同様の課題と、もうひとつ。岩下氏から、これらの例の、どこからどこまでがオリジナルから直接の参照で、どこからが他の作品にも見られる共有されたパターンなのか、という疑問も出された。いずれも重要な今後の課題だろう。

講演そのものが80分、休憩はさんで後半部90分の質疑というたっぷりした時間は、じつに充実して、よかった。とくに、生きたアーカイブともいうべき小野さんのお話は、あいかわらず勉強になったし、盛り上がった。貸本、赤本系研究者の発言もあった。会場の質疑は、戦後言説史において、なぜ、いかにして海外コミックの影響は「映画的手法」のみに集約されてしまったのか、という問題に展開した。さらに、こうしたアメコミなどの影響は、アジア規模ではどう捉えたらいいかという質問にもなって、予想以上の発展的議論にすることができた。いやあ、みなさんありがとうございます。

その後、有志でのライアン氏歓送会&懇親会でも話は盛り上がり、なかなか終わらなかった。ライアンさん、これからも研究の交流をお願いします。研究の地域的なコンテクストの内部にいないことが、有効な武器になりうることをこの目でみることができました。また身体表象専攻の図書室にアメコミ関連のまとまった資料を残してくれて、ありがとう。今のところ、専門の研究者がいないのが残念ですが。
帰国後、このテーマで本を書く予定だそうですが、誰か翻訳して出版されないだろうか?

とまあれ、いや、ホントにやってよかった。

追伸

小野さんと椎名さんに、身体表象の図書室にあるアメリカン・コミックス関連の資料をお見せしていたときのこと。小野さんは興奮気味に「あ、これ持ってる!」「あ、これはいいセレクションだなあ、これなら翻訳出してもいいな」とか、どんどんテンションが上がっていたのだが、突然話は映画『アベンジャーズ』に飛び「いやあ、あれは面白いんだよ! ハルクが凄いんだ、あれがハルクなんだよ!」と本そっちのけで熱弁。いやあ、小野さんだなあ。ほんとにアメコミ好きなんだよね。もちろん、アメコミだけじゃないけど。少年のようでした。 

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