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夏目房之介の「で?」

DVD『アメリカンコミックス スーパーヒーロー クロニクル』

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先日買ったDVDを観てみた。アメコミのスーパーヒーローの歴史や特質について、超有名なアーティストやライター、編集者などが語り、なかなか興味深い。現場の人たちが、アメコミやスーパーヒーローをどう思っているのかが、よくわかる。それほど詳しいわけではないので、一通り観ただけでは、そこここに面白い問題へのきっかけが隠されている気がするが、もう少し先まで行くには「教養」が足りないなと感じる。
アメコミ全体ではなく、スーパーヒーローの歴史ということでいえば、かなりよくまとまっているんだろうと思う。「ターザン」物やウェスタン、探偵物、ホラーなど、多様なジャンルの中からスーパーヒーローだけがフォーカスされている。戦後、バッシングにあって以降のアメコミの姿から逆に歴史を見ているのかもしれない。
特典のすべてを観てはいないが、メビウスがインタビューに応えているのを観た。僕が日本人だからだろうが、フランスから見たアメコミのスーパーヒーロー観は、さすがに面白い。記憶でいうと、こんな感じ。
「アメコミのヒーローは、人間を探ろうとする。とてもネガティブな部分をあぶりだしてヒーローを作り、それをポジティブに変えるという矛盾を抱えている云々」(追伸 たしか、アメリカ人にとってセラピーなんだ、ともいってた気が)
なるほどね。本編の中でも、多くの人が、スーパーヒーローはアメリカそのものなんだ、ということをいっていて、一人は「それが世界のどこでも通じてほしい」というようなことをいっていたが、アメリカらしいなと思った。また、「ヒーローたちにはイノセンスが必要で、そうでないとファシズムになる」という言及も面白かったが、イノセンスへの理想主義的な欲望がファシズムなんじゃないかと思ったりもした。
あと、スーパーマンを最初に作った二人の若者がユダヤ人であったことに意味を見出しているところも面白かった。知的にも身体的にも優れた異星からきた異邦人が、都会でその能力を隠し、平凡でシャイでむしろ笑われ者として過ごしながら、変身して大活躍する。それが移民であったユダヤ人の理想なのだという。アイズナーを読んでいると、なるほどとも思う。
ちなみにアイズナー『ザ・ドリーマー』にも出てきた『バットマン』を作ったアーティストの話も出てきた。
歴史的には、戦争による具体的な敵の設定、共産主義の恐怖とバッシングなどが語られて興味深いが、次々映される映像には、ラジオ、映画、TVなど、他の媒体との深い関係が示唆されていて、そちらも重要だなと思わせる。戦前の、かなり徹底的なリミテッド・アニメも見られた。

http://www.planetcomics.jp/dvd/index.html

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