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夏目房之介の「で?」

きくち正太『俺たちのLAST WALTZ』①

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何と、きくち正太がギターのうんちく付「おやじバンド」マンガを描いた。
きくち正太『俺たちのLAST WALTZ』①(日本文芸社)
正直、ロックやギターは全然詳しくないので、よくわからんのだが、面白い。
自称「そこそこのマンガ家」福地正秋の、自分らしい最後の砦であるエレキギターを弾くと「うるさいい」と家人に怒られ、ローンに追われ、切ない生活を送る日々がまず前半。そこに編集から「ギターのマンガ」を描けとの打ち合わせがあり、マンガ家と出版社勤務の連中と一緒にスタジオで演奏するという話がある。で、超越的にうまい「大人」のジャズ・ギター(懐かしや、ウェス・モンゴメリーばりという比喩が登場!)を弾くマンガ家の先輩が登場する。そこから、さらにE・クラプトンの「クロスロード」が入り、バンド全体がノッってゆく描写はなかなかのドライブ感。「音楽」を感じて楽しく読める。このあたりは、ジャズやブルースが出てくるので、知ってる曲やアーティストも多いし。

ところで、ここで「そこそこ」とされるマンガ家の福地先生は、少年週刊誌でのデビュー時原稿料6千円、キャリア20年で4倍の2万4千円で、ここ5年上がっていないとある。月産60ページでアシ3人。単行本、年3冊、発行部数平均2万部だそうだ。
以前、マンガ家の原稿料について書いたとき、71年頃で新人~中堅で5千円、手塚や永島慎二で1万円で、62年頃と比べると倍になっていると試算したことがある(「マンガ家はもうかるのか? 原稿料の変遷」拙著『マンガは今どうなっておるのか?』メディア・セレクト刊所収 2005年)。鈴木みそ『銭』①(エンターブレイン 03年)の冒頭の試算では、ざっくりと仮に平均2万円としていたので、40年たって2倍。低く抑えられてるなあ、と思った。一流どこのマンガ出版社の給料はかなり高いというから、構造としては大手と下請け的な関係に近いかもしれない。
ともあれ、ここ10年で「そこそこのマンガ家」の収入は、ほぼ横ばいって感じなのかもしれない。
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