オルタナティブ・ブログ > 夏目房之介の「で?」 >

夏目房之介の「で?」

MARUZEN&ジュンク堂の手塚イベント終了

»

昨年9月オープンという渋谷東急本店7階のMARUZEN&ジュンク堂での手塚治虫フェアにあわせ、今日3日午後2~3時、トークショーをやってきました。いやあ、楽しい1時間でした。しかし、最近渋谷に行ってなかったので、東急本店にこんな大きな書店ができていたのを知らなかったなあ。

20人くらいでしょうか、お客さんが集まってくれて、ごく気軽にアドリブでお話ししました。手塚さんの『勇者ダン』を子どもの頃長男が読んで泣いたと、のちに聞いて、その本を譲った話から、『ジャングル大帝』光文社版を手に「漫画少年」連載版と学童社単行本、及びのちのアニメ化前後の描き直し版の話、大学卒業直後に僕が出した自費出版のマンガを各方面に送り、本につけたハガキに手塚さんからお返事をいただいた話や、その数年後に初めてお会いしたらそのことを憶えていらした話、中国で81年に出版された『鉄腕アトム』「ホットドッグ兵団」の豆本(当時の連環画の形式)の話など、現物を持って行って、30分ほど。

それから質問をいただき、色々とお話ししました。「手塚さんは犬より猫を描かれる方が多いようですが、犬派でしょうか猫派でしょうか」とか、「デジタル書籍化について手塚さんはどう思われたでしょう」とか、イタコになって手塚さんに下りてきていただかないと答えられないような質問もありましたが、そこはそれ、話を広げて楽しくお話ししました。みなさん手塚さんがお好きな方々のようで、最後は「一番好きな手塚作品」をこちらからお聞きしたり。やっぱり『ブラックジャック』が多いようなので、好きな回をお聞きしたりしました。みなさんが「お~」と声をあげたり、しきりに頷かれたり、何か手塚仲間みたいになってました。こういうの、いいですね。

中に、手塚マンガのファンの会をなさっている方もいらして、最近どうしても年齢層が高くなるので、若い人にもっと読んでほしいとおっしゃる人もいました。でも、僕はマンガの世界では、亡くなってからもこれだけ読まれている作家はあまりいないので、むしろ読まれていると思っています。たまたま、高校生の女性がいらして、聞くとアニメを見てハマって、今は『火の鳥』を読んでいるそうです。これからも同じように読み継がれるだろうと感じました。僕のゼミにも、そういう若い学生がいますしね。

1時間はあっという間に過ぎ、わざわざ静岡からいらした知り合いの女性もいらしたのですが(すみません、後で捜したらすでに帰られてたみたいで)、とりあえず会場を後にして、書店の店長さんなどとお話しし、そのあとマンガ売り場で例によって買い込んでしまいました。

会場を後にした直後、僕より年上だと思われる方が声をかけてくださいました。その方は、40年前にいた職場が組合闘争などで荒れていたとき、ふと思い立って、手塚さんなどのマンガを集めて棚を作ったのだそうです。すると、みんなそれを読み、職場がなごやかになったのだと話してくれました。コミュニケーション・ツールになったんですね。いい話です。

控室に戻ってからご挨拶したさい、ジュンク堂の方にこんな話も伺いました。ジュンク堂の創設者の方だと思いますが、手塚マンガのファンで、ある時売り場を見ていて、手塚全集が揃っていないのを見つけ、担当者に怒ったとか。この話、MARUZEN&ジュンクのサイトにのっているとお聞きしたんですが、確認できませんでした。ジュンク堂って、ブックローンという通販会社で成功して、書店を作ったんだそうです。丸善の文具部門とジュンク堂書店で数店舗をMARUZEN&ジュンクとして出店し、MARUZENが文具を、ジュンクが本を売っているのだとか。そうだったのかあ。

ほんとは時間があれば、そのままみなさんと喫茶店にでも移動して、もっとお話ししたい雰囲気だったんですが(終わらないでしょうけどね)、何せ本屋好きで売り場を回らないと気がすまず(美術関係の棚も充実してました)、後の時間もあって、心を残してトークを終了しました。こんなトークショーだったら、いくらでもできますね、僕は(笑)。

マンガ売り場の担当の方は、東急本店という性格もあって、今売れているマンガより『ゴルゴ13』が売れたりと、やや苦戦しているとおっしゃってました。お近くの方は、一度行ってみられたらどうでしょう。けっこう充実してると思います。東急本店という場所柄、もっと大人向けで、少し高い商品でも、テーマを設けて一般書籍などと一緒に並べたり棚を工夫したら、かなり面白い本屋さんになるんじゃないかと思いまいました。

Comment(4)