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夏目房之介の「で?」

いがらしみきお『I[アイ]』小学館

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いがらしみきお『I[アイ]』は、『かむろば村へ』の発展形といっていいかもしれない。ある村の、生まれた日も分からない子供イサオが、不思議な能力をもち、老人を死に誘い、また幸福そうにする。人の生や死、存在とは何かを問うているが、まだ1巻なので、今後の展開はわからない。
だが、これほど直截に存在について問うた作品は、おそらくいがらしとしても初めてではないだろうか。ユーモアや笑いはない。シリアスである。主人公の少年は「人は徹底的に一人でしかない」と感じ続けているが、イサオを通して、自分の世界に初めて侵入する他者(イサオ)を感じる。それは恐怖だった。
これは自意識としての人間存在が徹底的に自分を問うたときに出会う問題で、そこに他者はいない。が、そのような場所の自己意識にとって、自分が「見て」いないときの世界は存在していないはずで、なぜ世界が存在しているのか、了解することができない。そうした問いが、イサオによって、「見て」いないときには世界は「闇」で、そこに「神」がいるという答えに出会う。
いがらしは、どうもとんでない場所にまで来ていたようだ。
この問いや作品世界は、わからないといえば、まったくわからないが、ある点でわかる場合には、じつによくわかるような種類のものだ。『かむろば村』は、正直僕の中で「終わっていない」感じがしていた。本作の今後を期待したい。

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