水木貸本時代の絵の元ネタ!?
水木しげる『妖奇伝』(1959年貸本 図版は青林堂『復刻版墓場鬼太郎 妖奇伝(上)』1992年17p)
ご存知、貸本の鬼太郎物の一場面ですが、水木は貸本時代、アメコミの古本(米兵の放出したもの)を参考にしてます。で、今回、50年代の米ホラーコミックスを集めた本に、ほぼ同じ画像を発見しました。水木版のページ下部の、走る男の後ろ姿と土を掘る男に注目。
アメリカのホラーコミックの「掘る男」の姿勢、ほぼ同じ。Warren Kremmer「Amnesia」1953年(Greg Sadowski「FOUR COLOR FEAR Forgatten Horror Comics of the 1950s」(Fantagraphics Comics 2011年 196p)
こちらも姿勢や陰影もほぼ同じに見える。同上197p
おそらく、これが元ネタの作品と考えて間違いないんじゃないでしょうか。
こちら水木『妖奇伝』の同じように手で顔を覆う男(100p)。
もうひとつ、鬼太郎の父親の元の姿であるミイラ男(水木の設定は生き残った幽霊種族)。これも、かなり近い画像を同じ本から発見。
水木『妖奇伝(上)』(同上)45p
これもかなり近い感じです。 Bob Powell「Servants of the Tomb」1951年(同上90p) ミイラ男の立ち姿にも、同じ絵があった記憶があったんですが『妖奇伝』には発見できませんでした。バージョンが色々あるので、ほかの鬼太郎物だったかもしれません。
水木しげるの貸本時代にアメコミが影響していたのは、以前からわかっていて、とくにコマの割り方にもそれが見られました。陰影の入れ方や姿勢も、別に元ネタがわからなくても、見ればわかる程度に影響があります。このこと自体、50年代における日米の影響関係を示す一例で、水木だけでなくほかにも例があるはずです。が、今回たまたま学習院の身体表象文化学専攻で購入したアメコミのホラー本で発見したものは、ほぼ実証例と考えていいかと思います。水木先生に確認するとか、水木プロで蔵書を調べさせてもらって確認することも今後考えられるでしょうが。この本は、今僕のところで研究員として60年代のマンガと政治の関係を調査にきているアメリカの研究者ライアン氏が購入希望を出したものですが、ヒョウタンから駒みたいなことになりました。ありがたい。
ところで、この本、あまりにも面白いので、僕もアマゾンで購入してしまいました。いやあ、飽きない。50年代アメコミの、それもホラー。怪しげで、刺戟的で、中には「ひょっとして、これ、メビウスに影響してんじゃない?」と思うような陰影効果や「アルザック」の元ネタ?みたいな作品にも出会えます(Basil Wolverton「Nightmare World」1952年 261p)。色っぽいおネエさんが4コマのど真ん中にまたがっているスタイル画的な構図もあったり(79p)。楽しいったらないんだ、これが!