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夏目房之介の「で?」

幻の佐々木マキ マンガ集 ついに刊行!

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6月半ば、太田出版から佐々木マキ「うみべのまち 1967-81」がついに刊行される!

http://www.ohtabooks.com/publish/2011/06/16160236.html

いやあ、60年代の「ガロ」と70年代の朝日ジャーナルで前衛的なマンガを発表し、僕を含めた当時のマンガ青年に深甚な影響を与え、マンガ世代のマンガ言説の立ち上がりにも重要な位置を占める幻の作家の復刻である。こんな嬉しいことはない。何しろ、僕は彼のマンガに影響されて、大学1年の頃の失語症的な状態(マンガや文章や絵が全然描けなくなった)から離脱できたのだし、その経験から「マンガとはコマと絵の線なんだ!」という直観を得て、のちのマンガ表現論につながったのだからねー。
じつは村上春樹もこんなことを書いている。

〈その当時はうまく解析できなかったのだけれど、僕にとっては佐々木マキのマンガはひとつの可能性でもあった。つまり佐々木マキが表現した方法、あるいは表現しようとしていた方法は、僕自身が何かを表現したいと漠然と感じていた方法とまったく同質であったのだ。[略]
 僕が佐々木マキのマンガから感じたのはこういうことだった――のだろうと僕は今思う。つまり〈表現すべきことがない時、人は何を表現すべきか〉ということである。〉(村上春樹「佐々木マキ・ショック・1967」 K・I・C思索社「思索ナンセンス選集6 佐々木マキのナンセンサス世界」84年所収)

 この文章は、もうほとんど僕が69~70年頃に感じていたことそのままといっていい。佐々木マキとは、僕にとってもそういう作家だったのだ。が、長いこと、彼の当時の作品をまとめて読める本がなかった。ようやく、67年から10年ほどの彼のマンガが復刻され、これでその当時の彼のほぼ全貌が明らかになることになったわけだ。あとがきで、佐々木マキ自身が杉浦茂の影響などについても書いている。じつは、この本の担当者がゲラを送ってくれて刊行を知ったのだが、まことにありがたい復刻である。感謝感謝。

そんなわけで、たまたま依頼を受けていた毎日新聞(5月22日付)の書評欄コラム「好きなもの」にも書かせてもらった。

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