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夏目房之介の「で?」

みなもと太郎、大塚英志『まんが学特講』

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みなもと太郎、大塚英志『まんが学特講 目からウロコの戦後まんが史』(角川学芸出版)である。いやはや、もうむちゃくちゃ面白い。この本については、すでに「漫棚通信」さんが書かれています。
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-04ec.html

「新現実」という雑誌で連載された大塚氏によるみなもと氏インタビューをまとめたものだが、かなり削ってあったりするらしい。僕は「新現実」の字の小ささにめげて、ちゃんとは読んでませんでした。たぶん、単行本のほうが読みやすいはず。
みなもとさんは、故米沢嘉博氏と並ぶマンガ知識の巨人ですが、とにかく既存のマンガ史言説では得られない知識や観点が目白押しで、たしかに「目からウロコ」であります。もちろん、基本的にみなもとさん個人の歴史から導きだされた観点が多いので、そのまま採用するかどうかは読者次第。
『巨人の星』の「がーん」の元祖は平田弘史じゃないかとか、さいとう劇画はじつは少女マンガから生まれたとか、貸本アクション劇画にはBL風の描写があるとか、おもしろすぎるネタ満載。また、戦後マンガのみならず世界的に60年代からヒーローの人格類型が変わった(いいコちゃんから不良のかっこよさに?)とか、劇画以前のマンガにペンタッチはなかったとか(これはビックリした、だって僕にとっては手塚はペンタッチのある作家だったからね)、西谷祥子の再評価とか、要検討な主題も続出。紙芝居、戦前のメディアまで含めた幅広い知識がちりばめられ、対談場所を提供した現代マンガ図書館の内規さんもときおり参加した高密度の対談。

しかし、この本の読みどころは、異なる世代のマンガ論者が、互いのマンガ史観をすりあわせようとするところじゃないかと思う。大塚英志氏も「はじめに」で、みずからの「トキワ荘史観」の相対化が主題だと書いているが、同席した「まとめ役」の大澤信亮氏(76年生まれ)が途中で「あまりに衝撃的なので」と質問したり、過激だった時期の少年マガジンを見て「こんな雑誌が「少年」向けに作られていたこと自体が驚き」と率直に述べていたりするところが興味深い。現代マンガ図書館で現物を見ながら話すという条件のもたらしたリアリティが、この本の面白さを支えているように思う。

追記2010.8.13

この指摘、面白いなあと思ったところに「日本マンガは白黒が基本」になった背景についてのみなもとさんの言がある。みなもとさんは、もともと日本絵画の影響を受けたビアスレーの影響を受けて白黒表現を洗練させた岩田専太郎が戦前大流行し、挿絵が印刷代も安くあがる白黒になってしまい、それが戦後マンガにも伝承したという。平野仁も岩田専太郎の影響を受けたという。これだけが理由かどうかは検証の必要があるだろうが、すごく刺激的な見方だと思う。128~129pにあります。

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