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夏目房之介の「で?」

アメリカから「料理マンガ」の研究者が

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ニュー・メキシコ大学で教えておられるローリー・ブラウ(Lorie brau)さんから、日本の「料理マンガ」研究の情報収集のために来日するのでお会いしたいとの連絡をいただき、せっかくなので今日のゼミで発表をしていただいた(もちろん流暢な日本語で)。ブラウさんは、72年に来日され、円菊さんのところで噺家修行も2ヶ月され寄席にも出られたという日本通で、すでに米国で落語についての本を出されている。こんどは料理マンガについての本を計画されているのだ。おかげでゼミは大変刺激的に盛り上がった。

発表は、結論のあるものではなく、現在彼女が考えているポイントをあげられる形式だった。箇条書きで書き出すと、こんな感じ。

1)少年、少女マンガ、青年マンガなど、マンガのサブジャンルに様々に存在する「料理マンガ」をどんな枠組みでとらえたらいいか。また、それらの間で「料理」のイメージはどう異なるのか。
2)商品市場としてのマンガの中で「料理マンガ」はどんなふうに読者(消費者?)に対するフックとして機能しているか。また日本の食文化として見た場合、何を語っているか。
3)「料理マンガ」、とくに『美味しんぼ』に見られるナショナリズム、米食にかかわる言説、ピュアなもの、エコなものがおいしいとする価値観と日本の海外と比較されたアイデンティティとは。
4)「料理マンガ」に限らないが、日本マンガにおけるリアリティとファンタジーの関係とは。
5)ジェンダー的な観点で見る「料理マンガ」。たとえば女性は料理をし、男性が食べる、という文化の中で、逆に男性が作り女性が食べるパターンの「料理マンガ」はどう受け入れられ、影響関係があるか。また、女性向けと男性向けの「料理マンガ」の違いとは。

ゼミ5限は、学生による「マンガとパロディ」を巡る発表だったが、その話も最後は「料理マンガ」につながり(・・・って僕がつなげたんだけど)、そのまま食事会に流れて、大変面白い話になった。
ブラウさんは、驚くほど日本の文化状況、マンガを巡る様々な文脈についてよくご存知で、全体の中での「料理マンガ」という捉え方ができる方だった。帰途にいわれた「日本人の料理についての欲求は異常ですね」という言葉が印象的だった。今後も情報交換をしていただきたいと思った。

追記
この項、意外とあちこちのブログに書かれている。興味のある人が多いのかも。
ところで、ブラウさんは『孤独のグルメ』が大好きで、続編を買うのを楽しみに来日したのに、食事会で一巻しかないと知って何度も落ち込んでいたのを思い出した。おかしかったけど、気持ちわかるなあ。

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