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夏目房之介の「で?」

手塚文化賞授賞式

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昨日は手塚文化賞の授賞式だった。『へうげもの』の山田さんのスピーチが終わるあたりで滑り込んだ。受賞は以下。

マンガ大賞 山田芳裕『へうげもの』  新生賞 市川春子『虫と歌』  短編賞 ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』  特別賞 米沢嘉博 http://www.asahi.com/shimbun/award/tezuka/

米澤さんの受賞は感慨深い。生前に取れればよかったけど、でもとにかく本当によかった。もし、清水勲さんと米澤さんの仕事がなかったら日本のマンガ史の見通しははるかに悪かったはずだからね。僕も含めて研究者の受けた恩恵は計り知れない。今後は明大の米澤図書館が後を継いでくれるだろう。

会場で、米澤氏の『戦後エロマンガ史』を出された青林工藝舎の浅川さんに会い、この労作のすごさを語る。大変な作業だったと思う。感謝。竹内オサムさんにも、ひさしぶりに会い、『マンガ学入門』のフランス語版がなかなか進まないと聞く。まあ、そういうもんです。

授賞式後、荒俣宏氏と竹内順一氏(永青文庫館長)によるトークイベント「数寄とひょうげ――古田織部から現代へ」があり、これがムチャクチャ面白かった。なかなか、こういう場でのトークでここまで面白いのはない。竹内さんの、写真やマンガ図版を交互に見せながらの話は、じつに興味深かった。織部の特徴、歴史背景、利休のこと、権力と茶の湯の関係など、それだけでも面白いのだが、竹内さんはマンガもきちんと読まれていて、マンガと史実の関係の話がまた面白かった。語り口もわかりやすく、TV向きだと思う。NHKの歴史物なんかに出られるといいのに。
とくに「利休ははじめ唐物を珍重したが、晩年、当時和製のコンテンポラリーを重視し、唐物の最大のコレクターである秀吉に切腹させられた背景には、それがあるのでは」という話が興味深い。利休がコンテンポラリー・アートだったとすれば、織部はポップ・アートだったのかな、などと妄想たくましくして聞いていた。

焼き物にはとんと無知な僕は、織部焼に現れる当時流行のさまざまな意匠の写真に興奮した。それは消費文化的な流行意匠に見え、分ける土地のなくなった時代の恩賞だった金銀と並ぶ貨幣がわりの茶道具の(荒俣さんのいうバブリーな)付加価値を作り出した利休と、いわばそのインフレのような織部の面白さを感じたような気がする。
荒俣さんは、産業構造がかわり、重商主義に向かう直前で徳川が価値を米本位に置いてしまったという歴史話にもっていき、本当はもっとぶっ飛んだ話が聞けそうだったのだが、さすがに『へうげもの』の話から離れすぎるし、時間もなかった。
マンガに登場するパイナップルやハートマークは当時の日本にありえたか、という話も面白かった。荒俣さんは、パイナップルはともかく、ハートは宣教師の伝導に使ったイコンで入っていただろうから、ありうるといっていた。
織部は結局徳川から切腹させられるのだが、それは茶の湯もまたバサラを継ぐもので、徳川初期に重用されたテクノクラートのほとんどがバサラであったので、世の中がおさまると不要になったのだという。茶の湯も、その中で変容してゆくらしい。

そのあと、僕は米澤さんの二次会、三次会に流れ、今アスキーにいる遠藤氏と再会。彼は「東京おとなクラブ」という同人誌を出していて、僕はそこに「模写によるマンガ批評」の走りとなるマンガを描いたりしていた。また高取氏、佐川氏に台湾から京都精華に留学中の博士課程の学生を紹介され、台湾のマンガ事情をいろいろと聞いた。三次会では、ひさしぶりに村上知彦氏とマンガの話や「ぐらこん」から同人誌、少女マンガに注目した頃の話をした。三次会では酒を飲んだので、ちょっとハイになっていたかも。
村上氏によれば、山上『中春こまわり君』は、1巻のほうが面白いのだそうだ。読まなきゃ。
楽しい晩でした。

追伸
というわけで『中春こまわり君』1巻、読んだ。
読んだのだが、う~ん、僕はやっぱり2巻のほうが面白かったなあ。
読む順番の問題なのかなあ。

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