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夏目房之介の「で?」

現代マンガ学講義(1)-1

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2010.4.22~  現代マンガ学講義(1) マンガとは何か? 歴史としてのマンガ  夏目房之介

1)マンガはいつからマンガなのか?
清水勲『漫画の歴史』岩波新書(91年)〈漫画の精神は本来、「遊び」と「諷刺」の要素から成っている。しかし、現代の日本漫画の特徴を一口に言うと、「遊び」としての機能が肥大し、「諷刺」としての機能が弱まってきている感がある。とくに一枚絵の諷刺画(カートゥーン)の分野は迫力を失っているような気がする。〉同書「はしがき」iiip
『鳥獣人物戯画』絵巻(12C.)から始まる漫画史観 「精神」による定義
・政治社会風刺漫画(1コマが多い)が上位で主流→物語漫画は子供向けで下位

なぜ、「漫画」と「マンガ」あるいは「まんが」表記が分かれるのか?
・戦後世代のマンガ言説において、戦前や戦後「大人漫画」と区別するため「マンガ」を用いる
・「劇画」「コミック」も大枠では既成の「漫画」から自分を区別するために用いられた(60~70年代)

我々のイメージするマンガとどこが違うのか? 諷刺漫画、大人漫画と児童マンガ
・ある程度の長さの「物語」性を持ち、あるいは一定のページ数を持つコマ数の多い説話形式で、キャラクターが説話を主導する(キャラの魅力が「読み」を促す)大量複製媒体→明治以降に成立
→大正期頃からの児童向け漫画・絵本/ 戦前の児童雑誌(「少年倶楽部」など)から生まれる戦後マンガ
→手塚治虫(赤本)、白土三平(貸本)らの変革と、マンガ専門の児童向け月刊誌~週刊誌化(50~60年代)
→※新聞の諷刺漫画、大人漫画の衰退(70年前後)→現在のマンガ形態へ ※=清水発言の背景

とりあえず「マンガ」をどう定義(orイメージ)しておくべきか?
・現在、日本に住む我々(現代マンガの多数消費者)がイメージする対象から出発
・近代複製媒体によって発達した「物語」形式を主とする大衆娯楽媒体(米コミック、BDも含む)
・説話的表現形態としては、複数のコマと絵と文字及び吹き出し(バルーン)によって成り立つ
・この「定義」は対象領域によって変更 ・近世以前の清水的「漫画」は、前マンガ的表現
補足 上の定義だと、少なくともスイスのテプフェール(19c.)にまで遡る
   また、コマも吹き出しも、絵と文字の混合表現も「物語」の絵表現もはるかに古くから存在する
・近代マンガの表現形態が、それ以前と、厳密に何が異なるのかという問題は今後の研究課題
参照 佐々木果(=ササキバラ・ゴウ)『まんがはどこから来たか 古代から19世紀までの図録』(09年 私家版) →マンガ、コミック、BDを共通の概念で研究する国際的なマンガ研究交流の方向へ

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