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夏目房之介の「で?」

現代マンガ学講義(2)-2

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現代マンガ学講義(2)-2 市場特性

日本マンガ成長仮説への批判

〈事実として日米のマンガ読者が同時期に高年齢化している[3-14]以上、日本マンガの巨大化の原因をこの時期のマンガ読者の高年齢化、それに伴う内容の高度化に求める類の議論には同意できない。/むしろそれは流通や小売り、ビジネスモデルの違いといったあきらかにアメリカとは異なる日本独自のマンガ出版における産業としての構造の部分に求めるのが妥当ではないだろうか。〉〈註3-14 高齢化 アメリカでは同時期にアンダーグラウンドコミックスも登場している。〉小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカンコミックスの変貌』NTT出版 2007年 87p

日本マンガが固有に青年化したわけではない →海外マンガの調査研究による相対化の必要性

01)出版流通小売り 戦時中に赤本など非中央流通を排除した取次の統一

1937(昭和12)年日中戦争→41(昭16)年「日本出版配給株式会社」 出版流通の一元化

4大取次と全国三百以上の取次、各出版団体の解散改組、統一組織化 →昭18には書店も大幅に縮小

47年GHQによる解体→日販、東販、大阪屋など(書籍、雑誌ともに扱う総合取次=世界的に珍しい

→強力な寡占取次制による全国雑誌の流通と書籍の同時展開市場

 参考 小田光雄『書店の近代 本が輝いていた時代』平凡社新書 2003年 など

02)ビジネスモデル e)メディアミックス、マーチャンダイジングの問題

50年代に始まるTVとマンガのリンク? 米41年TV放送開始(日米開戦)、日53年(日米講和後)

※日本は独自のTV技術を開発し、米と並ぶTV大国になる 高度成長~消費社会化との時代的一致?

〈テレビ・アニメの登場がなければマンガは「産業」と言えるほどの市場規模にはならなかったのである。〉中野晴行『マンガ産業論』筑摩書房 2004年 70p※中野も、日本マンガ市場拡大と青年化、市場多層化をあげる

※ただし、米国や欧州のTVとコミックの関係史を調べる必要がある

参照 図表4「耐久消費財の普及率」 加藤哲郎『戦後意識の変貌』岩波ブックレット 89年 17p

☆比較的廉価(一色印刷)な雑誌・単行本の二重市場 60年代末から始まる

☆小学館中心に発展した世代別セグメント雑誌市場の構造

80年以降のVTR普及とアニメ受容層=「おたく」層をコアとした消費層の変化(消費=表現へ

03)日本型社会の構造 社会的中間層の厚み

〈欧米では、コミックは基本的に「子供のもの」にすぎないか、ごく一部のマニアやアーティスティックな大人の趣味に限られ、ほとんどの場合、男性作家による男性読者に向けた、日本と比べればはるかに狭い市場にすぎない(ただし新聞のカートゥーンはまた別である)。/[]東アジアでは、日本マンガの影響が強いことと、大人・子供の境界意識が低いことで事情は欧米とだいぶ異なるが、市場規模や社会への広がりでいえばまだ日本とはかなり距離がある。/欧米などと比較したときの差は、基本的には中間層のぶ厚い「一億総中流」的な日本社会の特性によるのではないかと私には思われる。〉夏目房之介『マンガ学への挑戦 進化する批評地図』NTT出版 2004年 27p

〈この夏目の分析は前述したような欧米のコミックスに対する無理解を引きずった部分はあるが、「社会的な中間層への波及による、年齢、性別面での読者層の拡大」という点に関しては的を射た指摘であるように思う。/そして、私にはいくつかの点から現在アメリカで進行中のグラフィックノベル市場の拡大がここで夏目のいう「社会的中間層へのマンガ市場の波及」によるものだと思える。〉前掲小田切『戦争は』18~19p

参照 図表5「産業別就業者数の構成比の推移」 正村公宏『図説戦後史』筑摩書房 88年 217p

 産業構造の変化→都市集中、会社員・サービス産業など増加→社会的(知的)中間層の増加→中流意識

参照 図表6「見合結婚と恋愛結婚割合の推移」湯沢雍彦『図説 家族問題の現在』NHK出版 95年 83p

 既成共同体(農村部、下町)の崩壊と新たな都市的人間関係の成立 →都市的思春期、青年集団の成立

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