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夏目房之介の「で?」

上野顕太郎『さよならもいわずに』最終回

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 「コミックビーム」(エンターブレイン)5月号で、上野顕太郎『さよならもいわずに』が最終回を迎えた。ウツだった奥さんが突然亡くなって、娘と二人になった漫画家の、圧倒的な悲しみと喪失感を訥々と語った異色作である。考えられた演出、緻密に描かれた絵、画像の配置、選ばれたセリフや内語・・・・・、重苦しく逃げ場のない主題から一切逃げないという作者の姿勢がひしひしと伝わる。これを描ききらねばならない、という必死の思いも。
 悲しみや喪失感といったネガティブな主題ばかり追うマンガは、近年とみに読みたくなくなっていた僕だが、この作品は違った。読みたい、というより、ただ引き込まれる。何と言うか、「悲しみ」を作るフィクションの意図ではなく、あまりに圧倒的な「悲しみ」であるために、一種離人症的なほどの視点、透明でニュートラルな距離感が感じられる。そのため読者もまたじっと佇んだまま時間のない状態に近い印象で読んでしまうからだろうか。作品自体をはるかに越える「悲しみ」「喪失感」が、最後には祈りのような清々しささえもたらす。でも、「悲しみ」も「喪失感」も、消えないでそこにある。
 これを、どう評価すべきか、まだよくわからないが、素敵な最終回だったと思う。

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