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夏目房之介の「で?」

もりもと崇『難波鉦異本』上中下

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もりもと崇『難波鉦異本(なにわどらいほん)』上中下(エンターブレイン)が出ています。
ムチャクチャ面白いです。江戸時代の遊郭、遊女物というと、ほとんどが江戸吉原ですが、これは大阪の新町遊里。それも元禄より少し前の江戸初期。金に厳しい遊女和泉と彼女の禿ささら、それに和泉の常客・井原西鶴らをめぐる、きわめて人間臭いドタバタ劇。音曲の名人にしてなぜか武道も達人で、客をいたぶるSの和泉のかっこよさが見所。遊女は遊郭を出られないといわれるが、大阪ではゆるく、客と花見に出たりしたとか、武士が極端に少ない大阪の特性とか、杉浦日向子の江戸物とは一味違う江戸遊女物が楽しめます。当時の幽霊は逆さにあらわれたとか、歴史好きに嬉しいウンチクもあちこちに。
前にも連載元の少年画報社から単行本が途中まで出ましたが、今回未収録も含めての復刻。著者のあとがきなどもあってお得なんですが、それによるとお話の典拠は江戸時代の大阪遊里のガイドブック『色道諸分 難波鉦』だそうです。
ちなみに連載の担当者だった添田さんは、僕も昔からの知り合いです。人にいやな印象を与えない人格者で、マンガ研究にも参加してくれています。こういうマンガが復刻されるのは嬉しいですね。

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